死生観

____三日に一度生まれる程度の気狂い小説

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副題 人に恋する


眠いと変な物が出来ますよね。


珍しく三人称視点です。


#####


 彼がダンと叩くと、ガラスは脆く崩れ去った。中の液体が溢れ出す。

 そこにいた怪我だらけの青年は彼の腕の包まれた。彼は硬い表情を少し和らげ青年を優しく抱き締める。

 彼の背の羽は黒かった。この世の何とも形容し難いその真黒は、彼の丈長の外套をも染めている。外套の所々には、これまた形容し難い純白による十字架が刻まれており、元は誠実な信徒であった事が伺えた。

 彼は唇を薄く開くと、低く温和な声で言葉を紡いだ。

「大丈夫、大丈夫だ。君を嫌った__君を殺した世界は、もう無くなった」

 彼はそこで切ると、フゥと息を吐く。翠の目を一度伏せ、また前へ向ける頃には、彼の口元に怪しげな笑みが浮かんでいた。

「神様、ごめんなさい。俺も、やっぱり、兄らのように、人に恋をしてしまいました」

 その口調に、謝るような雰囲気は無い。形だけの謝罪だ。

「ですがね、俺は何も悲しくありません。堕ちようが、やはりそこにこの子への愛があるだけです」

 この子、という部分で、彼は胸元の青年を見た。青年は規則的な寝息をたてており、目覚める様子はまだ無さそうだった。

「兄らは、結局絶望に堕ちました。それは、相手が死んでしまったから____呆気なく、死んでしまったからだ、と俺は思うんです」

 彼は青年の髪を撫でながら笑う。それは先程の怪しい物では無く、我が子を見守る母親のような、優しい物だった。

 しかし、続く彼の言葉はその優しさと相反する物だった。

「ならば、ならば。己の手で愛しい人を殺せば、絶望に堕ちぬと思うのです。逆に、嬉しくて嬉しくて……死んでしまうやもしれません」

 言葉はそこで綴られなくなった。

 彼は懐から鋭利なナイフを取り出すと、無言で青年の胸を差した。刃はスゥと沈んでいき、真赤の血が地面に溢れていく。

 彼は光悦の表情で溢れゆく血を指で掬うと、静かに桃色の舌でそれを舐めとった。

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