第8話 どこかの怪しい部族
全校生徒に一斉メールで送信した内容は、以下のとおりである。
『進藤教授が研究がうまくいかずに錯乱して、学校中に火を放つと宣言しています! 学校に置いているパソコンや参考資料、実験ファイル、実験動物が焼却される恐れがあります。至急大学に来て資料を安全な場所に運び出してください!』
と同時に、シーツで作った松明をガスバーナーに近づける進藤教授の動画も添付した。ノリノリで変なお面を被り、踊り狂っているので、どこかの怪しいの部族のようである……。
無論、振りだ。本当に燃やすわけではない。が、本気だと思わせちゃうのが進藤教授なのである。
……効果は、5分と立たずに現れた。
三階の講義室から見下ろすと学内の駐車場にドリフトをキメつつ滑り込む車が十数台。下手すると玉突き事故になりそうなど慌てているのがまるわかりである。
道路にも続々と車が連なっていた。キャンパス内に駆け込む人々は必死の形相で、世紀末のハルマゲドンから大事なものを救い出しに来ましたといわんばかりだった。
「……わぁお」
「教授の日頃の行いが分かるってもんっすね……。完全に、あの教授なら放火魔もありうる! って思われてるっす」
教授は脚立を使って教室の壁掛け時計に発煙装置を括りつけながら、こともなげに言った。
「何をいまさら。それに、イカレてるのはわしだけじゃないわい。ここは人体実験を目こぼしするような大学じゃぞ? 所属研究者全員クレイジーに決まっておる。学生も教職員も事務も例外なくじゃ」
「大きく括られた上に滅茶苦茶偏見っすけど、その中でも教授は頭一つクレイジーさがとびぬけてる思うっすよ!」
藤村のツッコミに、教授はふふんとなぜか得意げに笑い、ひょいっと脚立から飛び降りた。
「さぁ、発煙装置を全部で10ヵ所設置できた。朝島よ、次のメールを送るのじゃ」
「あいあいさぁー」
さて、そろそろ機動隊が到着してもおかしくない。
……というか消防車まで来るんじゃないか。大丈夫かこれ。『モルディア』は騒ぎにならないようにって言ってたのに事態はどんどん大騒動に向かっているようだった。
いろいろ思わずにはいられなかったが、俺も必死である。
このメール送ったら、さらにカオスになるとわかっている。
が、それがどうした。もっと混乱させて『モルディア』が来るまで時間を稼がないと。こちとら身の安全がかかってるんだ。……大丈夫、いざとなったら教授が暴走する前に止めるから! でもまだ今は暴走までいってないと思うから! 多分!
ということで、俺は送信ボタンを押した。ぽちっとな☆
……学校中から悲鳴がこだました。
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