第6話 ▽進藤教授があらわれた!


「きょ、教授、どうしてここに?!」


 俺が叫ぶと、進藤教授は白衣の上からでもわかるたわわな胸を張って答えた。


「お主らの校内宿泊届を受理したのはわしじゃぞ。監督義務はわしにある! ……というのは建前で、不純異性交遊の気配を感じたので張っていたのじゃが」


「出歯亀かよ!」


「失礼な、わしのアニマはミドリニシキヘビじゃ! こんな美しい鱗をあんなしわしわの亀と一緒にしてもらっては困る!」


「問題はそこじゃないっす! ……いくら教授とはいえ、私たちはおとなしく研究されるつもりはないっすからね!」


 にらみつける藤村に対して、教授はニヤリと笑った。


「それはどうかのう。実は先ほど環境省と文部科学省に通報したのじゃ。『危険なバジリスクのアニマが大学に出没した。大至急捕獲を要請する』、とな。連中も半信半疑だったようじゃが、先ほど盗撮した石化しかけた藤村の動画を送ったら、機動隊を派遣してくれるそうじゃ。連中が到着するよりも、今降参する方が利口じゃぞ?」


「なっ……!」


 思わず息を吞む。藤村も目を見開いて突然湧いてきた危機に言葉もないようだった。俺は思わず叫んだ。


「かわいい生徒を危険生物扱いしやがって。あんたに情けはないのかよ!」


「無論ある! が、知識欲の前には人情など儚いものなのじゃ……。安心せい、わしはアニマ学の権威じゃからな。研究の主任はわしに任せられると思う。多分。いつも大学でお主にやってることと同じイタクナーイ実験じゃ。……多分!」


「多分ばっかりじゃねぇか! 安心できねぇよ!」


 分かってはいたが、酷い教授である。人間じゃねぇ。


「藤村、どうする?! こうなったらとっとと逃げるのが吉だと思うんだけど!」


 振り向くと、藤村は緩く首を振った。えらく目が据わっている。


「……二人だけじゃどこまで逃げられるか怪しいものっす。なら先輩、ここは徹底して大学に籠城しましょう。『モルディア』に救援依頼して助けを待つっす」


 なぜか教授が嬉しそうに笑った。


「おお、それはいい。『モルディア』とやらの実験動物たちが自ら飛び込んでくるというわけじゃな! よろしい。我々研究者はもろ手広げて歓迎しようぞ!」


 意気揚々と教授がはしゃぐ。どうしよう籠城なんて教授の言うように逆効果な気がしてならない。


「藤村、それは……」


「大丈夫、さすがに無策じゃないっす。ここはアニマの権威にご協力頂きましょう。通報者が私たちの仲間になれば、情報の攪乱ぐらいはできると思うっすから」


「ほほう、わしを仲間に!? できるわけがなかろう!? わしはお主たちを研究できるので心躍っているというに、わざわざ逃がすなんて真似をすると思うか?」


 勝ち誇る教授を、藤村はキッと睨みつけた。


「思うっすよ! いえ、させてみせるっす!」

 そういい捨てると、藤村は俺に振り向いて言った。


「さぁ先輩、進藤教授に命令するっす! 『蛇の王』たるバジリスクの威光の前に、教授をひれ伏させてやるっす!」


「えええええー!」


 そんな恐ろしいことできるとか聞いてないんですけどォ!

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