第7話 私はきれいなしんどうきょうじゅ
結論から言うと成功した。
いや違うんだ……俺はただ「わが身を挺して生徒を守る素晴らしい教授になってください!(やけくそ)」って言っただけなんだ……。そしたら……。
「私はきれいなしんどうきょうじゅ。あいすべき生徒を守るのが私のしめい」
綺麗なジャイアンかよお前! しかもなんかキラキラしてるんですけど。大丈夫かコレ……? 洗脳レベルじゃない?
「なんという事でしょう……。あんなに知識欲に汚かった進藤教授が美しい博愛精神に目覚めた教授に生まれ変わりましたっす……」
あれだけけしかけた藤村もドン引きする生まれ変わり具合だった。
「いやー、『バジリスクはあらゆる蛇の頂点に立つ』っていう伝承があるから、先輩が命令すれば蛇のアニマを持つ教授に効くんじゃないかと思って賭けてみたんすけど……想像以上っすね」
しみじみと藤村がつぶやく。賭けだったんかい。
「まぁ、これで教授が協力者になってくれたんですけど……。結局機動隊の要請は阻止できなかったっすね」
そうだった。通報者の進藤教授自身が電話で『あれは生徒がCGで作ったいたずら動画だった。機動隊は必要ない』と説明しても、実際に確かめなければ命令は解除できない、と押し切られてしまった。
まぁ、教授が人質に取られて言わされていると思われているのかもしれない。……事実、当たらずとも遠からずだった。
「『モルディア日本支部』への連絡はつきました。やはり、救援がたどり着くまで籠城してほしいらしいっす。下手に逃げて騒ぎになると後始末が大変っすから」
「後始末……?」
「目撃者の記憶消して回ったり、映像画像の流出を防いだり、……まぁ色々っす」
メン・イン・ブラックみたいな組織だった。まぁ、幻想種のアニマってある意味宇宙人みたいなものか……。夢が壊れそうだ。
「で、籠城の作戦なんすけど、教授と先輩、何か意見はあるっすか?」
カタカタとロボットじみた動きで進藤教授が答える。
「ソウデスネ。現在、広域性大規模花粉症が発生しているので、都市部の機能は麻痺状態デス。優先度から言っても、治安維持のため人員がそちらに割かれる可能性が高く、機動隊とはいっても、未確定な情報のために本校に対して大規模派遣はないと考えられます」
やだ、敬語の教授とか怖すぎる……。俺は震えながら右手を小さく挙げた。
「あの、普段の口調で喋ってください。罪悪感が半端ないので……」
教授はカッと目を見開いた。
「ちゃちい機動隊なぞ、わしの敵ではないわ!」
「口調戻りすぎィ! あと教授の戦闘力どんだけだよ!」
思わず突っ込んでしまったが、俺は悪くない。藤村は咳払いした。
「まぁまぁ。で、教授はどうするべきだと思うっすか」
「問題は、自宅待機勢が多すぎて、現在大学に残ってる学生・教員が少なすぎることじゃな。人を隠すには人混みが最適なんじゃが、こんなスカスカな人員密度ではすぐに見つかってしまう。もっと大学に人を集めて混乱させなければ時間は稼げぬ」
「つまり……?」
「自宅待機勢を呼び戻す。上手くいけば通学途中に渋滞でも引き起こして機動隊の進路を阻害することもできるじゃろ。なに、SNSと発煙筒とスプリンクラーを動かすだけでできる簡単な策じゃ。わしの手並みをとくとご覧あれ」
そういって、進藤教授はウィンクした。……やけに様になってる。
俺と藤村はそろって顔を見合わせた。
「なんか口調も相まって、教授が戦国時代の軍師みたいに見えてきた……」
「意外な才能っすね。いやこれでも、大学一の頭脳なんである意味ぴったりっすけど……」
「何をぼさっとしておる。まずは大学の連絡網を動かすぞ。無論SNSもじゃ。ああ、楽しくなってきたわい」
わくわくしている教授にせかされて、慌ててスマホを取り出す。スプリンクラーと発煙筒とSNSでいったい何をするつもりなんだろう。
なにか言いようのない一抹の不安が胸にこみあげてきたが、予想外に多い全校生徒リストに頭痛がしてすっかり忘れてしまった。
まさかあんなことになるとは……。
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