【11月22日は(もうすぐ?いつか)良い夫妻になる日】


 「こんばんは、私のマリア」


 嫌な来訪者が訪れた。時は夕暮れ。丁度、コレの活動時間に入った所だ。此処、2,3日何もなく大人しくしてたかと思えばこれである。

訪問の理由も変わり映えはなさそうだし…適当にあしらって終わらせよう。それと私は決してオタクの聖母マリアではないっといつも通り心の中で小事を伝えた。


「…どうも…何か用事?」

「あぁ。貴女に逢いたくなったんだ」

「…はぁ」

「あぁ…。それと、一つ貴女にお願いしたいんだ」

「…………………はい?」


 …………凄く珍しい事もあるのね。この変わり者の吸血鬼伯爵サマは、大抵『逢いに来た』や『声が聴きたくなった』と言ってやる事と言えば…ジィっとそれはコッチの顔に穴が空くんじゃないかって位に見つめているか…

聖書を読んでくれや此れを読んで欲しいだのと言って読み聞かせをするか....。

ニコニコ上機嫌で他愛ない話に相槌(と言っても大体は無視してるけれど)をうつ位でアレも満足するのだけど…どうしたんだか。


 「なに?手短にお願いできる?」

「安心してくれ。そんなに時間は取らないさ」

「なら、良いけれど…どうするの?」

「実は…。」

「……えぇ。」

「貴女のその美しい手に、少し触れても良い許可が欲しいんだ…」

「…………は?」


 …ちょっと、そんなソワソワして何言ってんの?コイツ。ねぇ、何を口走ってるの?恋する乙女の様に頬を仄かに赤らめても全然可愛くもないし、見惚れたりとかないから。辞めて頂戴。気持ち悪い。



 「私のマリアの穢れなく美しい肌に..手に触れても良い許可を…」

「いや、え?」

「俺の美しいマリアである貴女に...「わかった…わかったから…!」


 あああぁぁ…もう面倒くさいっ!後、何度も言ってるけれど…私マリアじゃなくバニカだし。

それより、よくもまぁ…世の女性諸姉様方を喜ばせる様な、言葉がつらつらと恥ずかしげも無く出るのよ…聞いてるコッチのが恥ずかしい。此処まで来るとある意味尊敬するわ。しかも違和感がないのがまた苛立たしい


 「あぁ…やはり、貴女は私のマリア…聖母であり女神だ…」

「いや、私は一介の修道士で人間だから。後、私はバニカだから。」

「ふふふふ…一介の修道士であっても貴女は私…俺のマリアだ。」

「あー…はいはい。で、手出せば良いの?」

「あぁ。貴女の好きな方で構わない」


 ハァ……面倒だわ。でも、ココで折れないときっと『今晩』は此処に居座ってずっと相手しないといけなくなるだろうし…下手したら明日..最悪こっちがOK出すまで続く方がもっと面倒だし…仕事にならないもの。


 にしても、何でまた手なのかしら…?まぁとりあえず、利き手でも出しておけば良いわね。



 「…はい。噛み付いたら十字架近付けるから。」

「ははははは。俺はその様な‘設定はない’っと言っただろう?」

「えぇ…えぇ。言いました。」

「ニンニクも効かないからな。」

「はいはい。分かりましたよ。マウントガーネット伯爵殿。」

「‘ガーネット’と呼べといってるだろ。私のバニカ。」


 ..あぁ、そう言えばそんな事も言ってたわね…。でも絶対、オタク…十字架は効くでしょ?あの時もあからさまに避けてたしすっごく焦ってたし。それに、今もちょっと焦ってるのかいつもの劇役者的な口調ではなく‘コイツらしい’口調になっている。……まぁ、たまにはこうやって揶揄うのも悪くないわね。


 私の手を揉んだり握ったり指をアレのそれと絡めてみたり好きな様にさせてるけど…そう言えば、こうやってコイツと肌が触れ合っているのは…ほぼ初めてに近いかも知れない。

 最初は、雪や氷水のそれの様だった感覚が私の体温が移っているのか仄かに暖かく冷え性特有のあの冷たさに近づいて来ている



 「…こんなにも、暖かいものなんだな。貴女は…」

「そう?」

「あぁ…とっても暖かい…」

「オタクが冷え性なだけなんじゃないの?」

「……え?」

「…なに?」

「………いや…………………ありがとう、バニカ」

「………………どういたしまして。ガーネット伯爵サマ」

「…ガーネットっだ」


 ……何に対して、お礼を言われたかなんて分からないけれど..まぁ、泣く子も震え上がるマウントガーネット伯爵サマのとっても人間らしいを見れた事だし…よしとしとこう。


 「………何が可笑しい?」

「……えぇ?何が?」

「楽しそうな顔をしてる。」

「…そう?」

「あぁ…。」


 私、知らぬ間に笑ってたんだ..コイツに笑いかけてたんだ。まぁ、コイツが珍しい言動があるんだから、私だっていつもと違うの日だってあるわ。


 「………………。」

「………え?ちょ…タンマ!そこまで良いとは、い…てっな?」

「今日は、ある国では良妻良夫の記念日らしいぞ。だから…」


“此れを貴女に贈ろう…愛しい聖母バニカよ…”


 こいつ、私の事を『女神』やら『聖母』と言って崇拝しておきながら、妻にしようとかすっごく傲慢ね。

それ以前に、私達恋人でもないし、むしろ、夫妻とか無理だから。絶対無理よ。

口付けられた後現れた、右手にある蒼鉱石サファイアが控え目に輝いてたってこれだけは絶対に変わらない事を今、此処でしっかり話さなきゃ…勘違いや解釈違いも甚だしい!





 此れを貴女に贈ろう…愛しい聖母バニカよ…


本当は、魔術錬金術の類で顕現させた指輪紛い物ではなく、陽の当たる暖かな空の下貴女と一緒に選んだ指輪本物を貴女の森より深い翡翠の様な瞳に私と嬉しさを移して欲しいんだ…


 きっと、貴女は『世迷い事』の類で括って嫌悪でその今は穏やかに微笑む表情を歪ませてしまうだろうが…私…いや、我がマウントガーネット家次期当主の名を持ってこれは『世迷い事』ではなく『誓い』としてこの想いを乗せてその指輪紛い物を送ろう…。


【11月22日は(もうすぐ?いつか)良い夫妻になる日】

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昼夢夜想者と惰気満々人─Deireadh sona Rómánsacha は ありえない!─ 卯月普賢 @Uduki_sosaku

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