第6話 すべてを失った青年

アイトにはどうすることもできない。


なぜリュウトが殺されたのか、誰がリュウトを殺したのか、それを見つけ出すことすら、彼にはできない。


「‥‥」


歩く屍のごとく、彼は街をあるいていた。突きつけられた現実は、悲しみにくれる時間さえ制限してくる。


彼に救いの手を差し伸べてくれるものはいない。


せめて雨でも降ってくれれば、彼の悲しみを洗い流してくれるかもしれない。しかし、あいにく天気は快晴。今は彼のことを慰めてくれるものもいない。










エレナは先に家に到着した。


「‥‥」


晩御飯を用意して待ってるとは言ったものの、中々そんな気分にはなれなかった。


しかし、アイトが帰ってきたときに少しでも彼を慰めるためには、ご飯を作ってあげる必要がある。


必要があるというよりは、エレナにはそれしかできない。


「さぁ‥‥て、作ろうかな。親子丼」


彼女は台所に向かい親子丼を2人分作った。




親子丼はすぐに完成した。


彼女は思い出した。今日の晩御飯は手軽に作れるものとアイトからリクエストされていたことに。


「はぁ‥。アイトさん早く帰ってきたくださいよ」


思わずため息をつくエレナ。


料理をする時間が短いということは、アイトの帰りを待つ時間が長くなることを意味していた。


待ってる時間は、彼女には窮屈だった。せめて料理を作る時間がもう少し長ければ、彼を待つ時間も少しは少なかったはずだ。


「‥‥このままじゃ冷えちゃう。先に食べようかな」


アイトの帰りはおそらく遅い。そう感じたエレナは先に食事を済ませた。


その数時間後、アイトが帰ってきた。


「お、おかえりなさい、アイトさん」


「‥‥」


彼は何も言うことなく部屋に入っていった。


「私はどうすれば‥‥」


朝はあんなにも明るかったアイトの豹変ぶりに戸惑いを隠せないエレナだった。




そして、エレナはアイトの部屋に食事を運ぶことにした。


すっかり冷え切ってしまった親子丼を今の彼に渡すのはいかがなものかという考えも頭によぎったが、なにもないよりはマシだろうと考えた結果の行動だ。


部屋の扉をノックしてエレナは、


「アイトさん、部屋の前に食事を置いておきますね。お腹が空いたらいつでも食べてくださいね」


エレナはアイトにそう告げ、彼の部屋の前から姿を消した。


その日、アイトは部屋から出ては来なかった。

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