第5話 無慈悲な現実

エレナと会話をすることもなく、アイトはひたすら朗報を待ち続けていた。


すると、さっきの救護隊の人がアイトの元に向かってきた。


「なぁ、親父は無事なのか?」


「‥‥ご臨終です」


「‥え?今‥‥なんて?」


「ご臨終です」


「なんで‥‥なんでそんなにあっさりしてんだよ!」



「心臓への損傷が激しく、さきほどお亡くなりになられました」


「そういうことじゃねぇよ!ちきしょう!」


アイトはその場に膝をついて倒れた。


エレナは声をかけることはできなかった。


救護隊の人はアイトにそう告げると


「ご遺体を拝見されますか?」


アイトにはおそらく聞こえてはいないだろう。アイトはひたすら涙を流していた。


「では気が変わりましたら4号室にお越しください。そこにお父様のご遺体を安置しておりますので」


救護隊の人はどこかに去っていった。


エレナはひとまずアイトを置いて4号室に向かうことにした。


「アイトさん。私はリュウトさんに会いに行きます。アイトさんもすぐに来てくださいね」


そう告げるとエレナは4号室にむかった。





数分後


アイトも4号室に向かった。


そこにはリュウトがベッドの上で寝かされていた。


「お、親父!」


もちろん返事は返ってはこない。


「なんで‥なんで‥。誰がこんな‥」


リュウトを含め他の負傷者達は全員死亡が確認されたらしい。


犯人もまだ見つかってはおらず、手がかりさえないという。


「アイトさん‥」


エレナにはアイトの気持ちが痛いほどよくわかる。彼女もまた、母親を亡くして、父親にも捨てられた同然の境遇なのだから。


アイトの辛い表情をみたくはなかった。エレナはもうここにいることはできない。


「アイトさん。私、先に家に戻りますね。晩御飯の支度をしてまってますから」


エレナは病室を出ていった。





アイトは病室にいつまでもいた。


すると、病院の職員がやってきた。


「お取り込み中の所申し訳ありませんが、そちらのご遺体を処理する作業に入ります。直ちにここから立ち退いてください」


「なんだと?親父をどうする気だ!」


「他のご遺体の親族を探す作業が優先です。そちらのご遺体は親族の確認が完了しております。そうあなたです。親族にご遺体を確認いただいたら、火葬するのが、この国のルールです」


「ちょっと待ってくれよ!」


職員がぞろぞろとやってきて、アイトをつまみだす。アイトの抵抗もむなしく、彼は病室から追い出された。


リュウトはどこかに運ばれていった。おそらく火葬場だ。


「うわぁぁぁああああ!!」


アイトは叫んだ。なにもできない自分を悔やみながら叫んだ。

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