異世界勇者の苦悩 ~ドSプリーストと幼女ウィザードを添えて~
四条建る
はじめに
始まりの森の樹の上で
強い風切り音の中、乱れる黒髪を押さえながら少年はゆっくりとまぶたを開いた。目がくらむような光の先に広がった世界を目の当たりにし、思わず感嘆の声を漏らす。
地平線の先までも見渡せそうなほど広大な平野、遠くには灰色の岩肌を見せる山脈が巨大な壁のように連なっている。なだらかに流れる川の行きつく先には大きな湖が澄み切った清流をたたえ、湖畔には石造りの壁に囲まれた城とその城下町が見えた。
原生林のような木々のそびえる山々の、頂きに根付く一際背の高い大樹の枝の上に立ち、山田雄太は眼下に望む雄大な景色に心躍らせた。
ふいに太陽が雲に隠れてしまったように視界が陰る。空を仰ぐと、しかしそれは雲などではなかった。竜だ。
巨大な一匹の竜が翼を広げ、空を駆けていく。頑強そうな赤い岩のような鱗とどんなも物でもかみ砕くことが出来そうな牙。竜は平野に影を落としながら、山脈を目指して飛んでいく。
その山脈の更に遠くの空が紫色の靄でくぐもっている。時折赤い稲光が靄の中に走るのが見えた。そこにはこの世界の魔王の根城がある。
雄太は武者震いで膝の震えが止まらなかった。
ここは元々雄太が生まれ育った世界ではない。そう、異世界だ。
あるひょんなことがきっかけで、雄太はこの中世RPG風の世界へやってきてしまった。
望まずして異世界へときてしまった雄太は、当初、不安に駆られて仕方なかったが、この風景を見れば否が応にも期待が膨らんでくる。
「ここから俺の物語が始まる!!」
恥ずかしいセリフを高らかに叫び、こぶしを固く握るこの男は単純極まるバカとしか言いようもなく、ゲーマーの血が騒ぐのか、それともアニオタ故の性なのか、これから続く長く壮大な旅(仮)に胸熱く躍らせる瞳はキラキラと輝いていた。
心強い旅の仲間は、プリースト(僧侶)とウィザード(魔術師)。実はこの二人もかなりの問題児。
はてさて、これから始まる勇者山田雄太の魔王討伐の旅。一体どうなってしまうことやら……
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