第一章 勇者、ぼやく

1話目 モンスター出たってよ

「助けて! 勇者様ーっ!!」





 大樹の枝の上で感動と高揚に浸っていた雄太は、足元から響いた悲鳴でハッと我に返った。





「どうした! 大丈夫か!?」





「モンスターでーす! 早く来てください~!」





 滑る枝に脚を取られながらも叫び返すと、どこか間の抜けた緊張感に欠ける声が返ってきた。それは仲間の一人であるウィザード『ピリカ』の声だった。





 モンスターの出現。旅に出てから三日目、モンスターに出くわすのは二度目のことだった。ここら辺のモンスターは弱いとはいえ、自分たちの命を狙う敵。気の抜けた少女の声に若干の不満を覚えつつも、雄太は懸命に枝伝いに大樹を降りていく。





 以前にモンスターと対峙した際には全くと言うほど役に立てなかった。いいとこは全て仲間のプリーストに持っていかれた。今度こそは、という思いが雄太の身体を突き動かす。





「勇者様~、早くぅ~」





 しかし、やる気のない声だ。今まさにモンスターが迫ってきているというのに、あいつはやる気あんのか? と、大樹の幹を降りるのに手間取っていることも相まって思わずイライラしてしまう。そんな時だった。





 足を踏み外した。





「えっ!?」と思った時には身体は既に反転、真っ逆さまに落ちてデザイアしていた。





「うおぉぉぉぉぉっ!!」という間に落下して、命の心配をする暇もなくものすごい音を立てて地面に激突した。大樹の葉が派手に舞い、頭にひどい痛みと振動でもだえる。





 どうやら落ちた場所に生えていた草と大量の葉で命は助かったらしい。





「痛ててて……」





 打ち付けた頭をさすりながら身体を起こす。大したことはないが、全身がしびれているようだった。自身の五体満足を確認し、安堵と共に顔を上げるとしかし、目の前に立っていたのは、人間ではない、人型をしたモンスターだった。





 モンスターは三体。土色の肌で身長は人間の子供程度で、身体に似合わない大きさの棍棒を片手に目を点にする雄太を囲っている。ゴブリンと呼ばれるモンスターだ。





「えっ?」





 間の抜けた声を漏らし、辺りを見回すが仲間の姿はない。ゴブリンたちは学校のいじめっ子よろしく、不敵な笑みを浮かべながら雄太ににじり寄ってく。もうそれは袋のネズミだった。





「た、助けて~っ!!」





 恥も外聞もなく叫ぶが、ゴブリンたちは止まらない。振り下ろされた棍棒に意識を奪われる、見事な袋叩きだった。





 ──ああ、俺ここで死ぬのかな……まだ冒険すら始まってないのに……っていうか、あいつら一体どこ行ったんだよ! ふざけんなよ! ……こんなことなら、やっぱり異世界召喚なんてされるんじゃなかった。





 雄太は途切れ行く意識の中で、そんなことをぼやいた。

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