それでも"唯一"が欲しいのか


・才能も根気もないお前が「特別」になれる、唯一にして実に簡単な方法を教えてやるよ。まず着ている衣服を全て脱げ。そして家から外に出ろ。今のお前は特別だから人の目を十二分に引く。後は「我は神に選ばれしもの」と高らかに叫びながら闊歩し続けろ。

……いつまでやればいいかって?その点も心配ご無用だ。続けていれば、自然に終わってくれる。


・ふざけるな、って。俺はまっとうなアドバイスをしたつもりだ。一般人と違う存在になりたいんなら、まず「一般人が得られる幸せ」を全て捨ててみろ。穏便に暮らせることも、自分のペースで生活出来ることも、誰かと共感し合える喜びも、全て。


・教科書通りが嫌い、定石が嫌い、常識が嫌い。何よりも大多数マジョリティが嫌い。気持ちは分かるぜ……我を通すのはかっこいいし、目立つものな。少年漫画とかでも、こういうルール順守の優等生キャラが、破天荒な主人公の掟破り戦法に負けたりするしな。

 だが、考えてみろ。教科書があるから、基準があるから、多くの人間が共通の認識を得ることが出来る。正誤や優劣を定めることが出来る。「頑張り」を認めたり、失敗した者を慰めたり出来る。

 それが「ぬるま湯の世界」「まやかしの世界」だって言うんなら、語ることはもうないが。


・お前は「真実」を知ってるんだろ。どこの雑誌かネット記事を斜め読みしたか知らないけど、陰謀論やら裏事情に随分お詳しいそうじゃないか。

 周りの「情報弱者」どもを嘲笑って、世間の動きを高みから見物してるんだよな?

……なんだよ。ちょっと会話を無視されただけで、そう寂しい顔すんなって。お前は「特殊」なんだろ?「唯一」なんだろ?

 一般の対極に属するお前が、どうして他人に受け入れられると思ってるんだよ。


 都合の悪い時だけ「普通」ぶるの、本当にやめてくれるか?


・当たり前の話だが……「誰もやらないことをする人」の喜びや苦しみなんて、その人にしか分からないに決まってるだろ。

「どうして分かってくれない」なんて台詞、身勝手にもほどがあるんだよ。

 自分から動こうとしない、人に合わせようともしない、文句だけは一人前に垂れる。そんな奴のどこを認めれば良いんだよ。「チシキ人」じゃないから分かんないんだよ。


・お前に与えられた道は二つ。

 一つ。自分だけで自分を認めながら生きていく。答えのない禅問答みたいな人生を、これから五、六十年繰り返す。

 一つ。恥も外聞もなく、無知をさらけ出し、人の真似をするべく足掻き続ける。今の自分の立ち位置が「負」であることを認め、世間の認めた「正」の方向へと歩いていく。

 お前は後者の文章を見て、ひどく虫唾が走ったはずだ。特に「認めた」というところが。ただの「いまいちな普通人」として生きるのは辛いことだし、あんな馬鹿な大衆に迎合するだなんて、と思っているのだろう。

 

・だが、お前が現状に不満を抱き、隣人に嫉妬しているのは……お前にとっての「幸せ」の定義が、その「馬鹿な大衆」とやらと同じだからだろう。

 簡単な話だし、口を酸っぱくして言い続けてもいる。どんなに虚勢を張ろうが、お前の能力は「馬鹿な大衆」と同じだし、抱いている望みも似たようなものだ。

 アイデンティティー、ルサンチマン、モラトリアム。そんな堅苦しい言葉を使う必要はない。

 精神構造や人間心理、哲学だなんて高尚な領域に踏み入れる必要もない。


……とどのつまり、意地の問題なんだよ。負けを認めたくないという、ただそれだけのな。


・それでも。それでも、唯一無二、特別な人物になりたい。本当にそう強く願うのなら、まず、一般人として上等になってみせろよ。


 分からないことは人に聞いたり、調べろ。知ったかぶるな。

 近年の流行モノや出来事を調べろ。

 ジャージを着て、おじさんに交わってジムに行け。

 部屋を整頓する癖をつけろ。あと、簡単な手料理は作れるようになれ。

 衣服店で買い物をしろ。

 会社の呑み会、上司や先輩におべっかしてみろ。

 色々な「店」に出向き、経験を積んでみろ。


 自分の世界持ってます、マイペースが売りなんですとか、本当にどうでもいいから。まず体面を保ってから言え。


・「そんなの待ちきれない、私は一刻も早く特別になりたいんだ!!」と思うやつ。

 だったら、普通の人間の倍、頑張れよ。不器用で人の半分しか出来ないのなら、四倍だ。一般人のお前と、特別なお前、両方を満たせるように、死力を尽くして毎日を生きてみろ。

 一日や一週間じゃない。「特別」とやらが実るまでずっとだ。暇なんて全く無くなるだろうが、それでも血反吐を吐きながら突き進め。

 継続が苦痛で堪らない特技なら、やめてしまえ。ここはゲームの世界じゃない。異能を手に入れたら、それで完了クリアじゃないからな。鍛え続けなければ、容赦なく鈍り、「特技」の水準から零れ落ちていくのだから。

 荒療治ではあるが……未練をズルズルと引き伸ばして、取り返しの付かないところにいくよりかは、よっぽどマシだろう。


 とりあえず、一般人にだけはしとけ。つぶしが利くから。

 それくらいは流石に、賢いお前なら分かるだろう?


・色々とぶちまけたが、こんなことは自分で決めるものだから、書くだけ書いて(あるいは読むだけ読んで)実践しないことくらいは、十分に理解している。

 自分の目的の為に邁進すればいい……だが、往々にして、その「目的」は他の誰かが既に到達しているものだし、経験を積んでいけば、自ずと姿も変わっていく。

 洗練させるのに必要なのは、決して自画自賛や他者批判なんかじゃない。未知の経験を求める心と、実行する為の勇気だけだ。お前が「やらず嫌い」しているものこそが、一番求められている経験なのだ。


 そして、多くの経験を積みながらも、貪欲に未知を求め続けるような人物のことを、周りは「インテリ」と呼ぶんだぜ。

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インテリ志願の小説家に告ぐ 脳幹 まこと @ReviveSoul

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