この作者さんは、笑える小説を書く名手です。
どの作品を読んでも「元々面白い人が、渾身の力を込めて面白い話をしている」「1話1話に読者を楽しませようとする気持ちが満ちている」と感じます。
連載中の『隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!』や、完結済みの長編『魔王になりたい俺の友は善人として称えられる』もおすすめですが、入門編としては『萌語物語』がいいかも知れません。
1話800字程度でサクサク読み進められます。
幼女の姿をした萌の神様「萌神」が、萌えを知らない青年・波野雄常に「萌え」を語る、という会話形式の作品で、メイド、ツンデレ、どじっ子、巫女……といった基本的な萌えからマニアックな萌えまで、語り尽くしています(途中で仲間が増えます)。
会話形式というと、いかにも単調になりそうですが、決してそんなことはありません。漫才風にしたり、コント仕立てにしたり、あの手この手で楽しませてくれます。
基本的には一話完結ですが、回が進むうちに、萌神と雄常の関係に少しずつ変化が……。その関係性にこそ本当の「萌え」が潜んでいたりして、ほっこりもします。
この作品、ぜひ「あらすじ」から読んでください。
そこからもう面白いです。
秋の夜長に笑いたい人におすすめ!
この作品を、連作掌編集と呼ぶべきか? それとも小話集やコント集と呼ぶべきか? 読者によって評価は異なるだろう。
しかし、どのようなカテゴリーとして評価しても、楽しい作品であることには変わりない。
怒濤のように撃ち込まれる萌神のこじらせた言葉の弾丸。
どのような弾丸にも怯まずツッコミを入れる雄常。
毎話繰り広げられるコントに、ついクスッと笑ってしまう。
萌えの解釈は萌神のオリジナルかもしれないが、やけに説得力があり、萌えに詳しくない読者(私)ならそんなものかと納得してしまう。
正直なところ、私個人は目次じゃなく「萌え要素ごとの索引」が欲しい。索引があれば、例えば「ツンデレ」で調べると、関連する話がすぐ読み返せるようになる。
何でそんなことを要求するのかと言えば、私が「萌え」に詳しくなく、そしてこの作品で勉強しているから。
私同様に、何となく萌えとはこういうものかと、生半可な知識しか持ち合わせていない方にとって、この作品は参考書にもなる。
様々な楽しみ方があり、利用方法すらあるこの作品。
是非、多くの方に楽しんでいただきたい。
萌パワーを得るために、古今東西の萌えについて、語り、さらには体現しようとする(そしてたいていズレてしまう)萌神様が本当に可愛いです!
さすが萌神様! 萌え……じゃなかった、笑いが止まりません!(あれ?)
会話文が主体なので、さらりと読めるのですが、サブタイトルにまでちりばめられているネタといい、毎回、綺麗にオチる会話といい、作者様の努力と力量を感じさせられます。
が、難しいことは考えずに、ぜひともこの作品を楽しんでいただきたいです!
かる~く読めて、萌えの勉強になり、しかも笑って元気になれるというおまけつき!
萌神様の魅力に、あなたもやられちゃってください!
「というわけでね、カクヨムで注目している作品のレビューをさせて頂きたいんですけど」
―今回の作品は『萌語物語』 狼煙さんの著作です
「こう言うのも何だけど、よくわかってないでしょ、あなた。萌えのこと」
―うん。何て言うか、いまいちルールがわかんないスポーツ見てるみたいな。
「ああ、カーリングとか」
―カーリングは知ってますよ。真剣勝負をする選手たちの凛とした美しさと、そこで交わされるどこかほのぼのとした方言による会話とのギャップを愛でる競技でしょ?
「ねえよ、そんな競技。けど、何気に理解してるじゃん、萌えを」
―あ、今のやつ、萌えですか。
「広義ではね。それにしてもこの作品はすごいよ。『萌えとは心の栄養』『人間のみに許された高等感情』って。一エピソードに一語、出るわ出るわ萌語の数々」
―萌語botとか作れそうだね。『主人に従いつつも赤面による恥じらいを表現すること忘れない女』『卑しいメス豚にどうかそのシュークリームをお恵み下さいませ』だって。
「きわめつけは『鬼に金棒、幼女にスクール水着』って。どんな構造の脳から湧き出して滴来るんでしょうね、このフレーズ。
―いやいやいや、俺だってスクール水着には興奮するぜ。
「あれ、そうだったの?」
―なにしろ『スクール水着の日焼け跡保存会』略して『スク保』の会員だからね。
「健康指定飲料みたいな略称だな。つうか初耳でした。あなたにそんな性癖があったとは」
―うん、まあ俺の場合は熟女限定だけど。
「……聞こえたね、今。いろいろなものが引く音が」
―ゾクゾクするよね、「ピザをピザパイと呼ぶ熟女」とかね。
「するんだ、ゾクゾク」
―夏の神社で、白装束の胸元を広げて風を送る様に見とれていたら、気づかれてこっちに険しい視線を返してくる『熟巫女(じゅくみこ)』とか。
「あるのか、熟巫女って言葉。それにしても暑苦しい語感だな」
―迷い込んだ旅人をかどわかして食べる『安達が原の鬼熟女(きじゅくじょ)』!
「今度は妖怪譚になっちゃった」
―舞踏会の後、やれやれと言った表情でハイヒールを脱ぎ捨てておにぎりをパクつくドレス姿の貴婦人(47)。
「……その辺の年齢ですか、ストライクゾーンは」
―普段はしっかりものなのに夜勤明けで頭がぼーっとしたまま着替えをして、ナースキャップをかぶって更衣室から出てくる『熟女看護師』とか。
「あの……」
―他にも流暢な日本語で「おじゃまいたします」と、玄関で礼儀正しく頭を下げた後、靴を履いたまま土足で上がり込んでくる『帰国子女の熟女』。
あるいは「これが…雪?」と、初雪の降り始めた空を見上げてポカンと口を開ける『南国育ちの熟女』。
もしくは監獄のある孤島に向かう船の窓から『今、船の下で何か大きな影が動いた……』と、蒼ざめた顔で呟く『熟女囚(じゅくじょしゅう)』
「……すいません……そのあたりで」
―(熱い口調で)長時間の正座で足をしびれさせ、苦悶の表情をうかべる『熟尼僧(じゅくにそう)』!厳冬の海で漁を終えて、紫色の唇をわななかせながら焚火に柔肌を晒す『熟海女(じゅくあま)』!袴熟女(はかまじゅくじょ)に草鞋熟女(わらじじゅくじょ)!学習塾の塾長が熟女!」
「早口言葉だね、もう、最後のあたり」
―きわめつけはこれ!ストライクゾーンぎりぎりの『熟婦警(じゅくふけい)』に、ものすごい方言でスピード違反の切符を切られる!
「熟婦警……」
―『あんだあ、飛ばしすぎでねえが?』って。
「やかましい!」
―というわけで、今月から始まる『熟女b ot』どうぞお楽しみに!
「金輪際始めねえよ、いい加減にしろ」
<了>
人は何に萌えるのか。
その性癖は十人十色、千差万別。
星の数ほどある『萌え』について、ただひたすらに語り、自ら実践し——
そして敢え無く散っていく、そんな神さまが『萌神』です。
キュンキュンニヤニヤなラブコメを期待してはいけません。
ト書き形式の会話文で淡々と繰り広げられるのは、それぞれの『萌え』についての分析と活用法。
その多種多様性たるや、よくぞここまでと唸ってしまうほど。まさしく『萌え』理論のデパートと言っても過言ではないでしょう。
そして更に忘れてはならないのは、そこかしこに散りばめられた小ネタの数々。
思わずクスリとしてしまうものから、ここでそれブッ込んでくるんかい! と盛大にツッコミたくなるものまで。
個人的に、作者さまの小ネタのセンスが大好きで、毎回の更新を楽しみにしております。
一話一話の文字数が少なくてすぐ読めるのも魅力的。
それでいて必ずクスッと笑えるのだから、もう言うことありません。
奥深い『萌え』の世界(と小ネタ)を、あなたも堪能してみませんか?