異界への軽やかな跳躍

自分で和風ファンタジーを書こうとするとどうにも堅苦しくなってしまうので、こうした軽妙さの中に確かな素養を滲ませる作品を拝読するととても羨ましくなります。手触りはふわふわと柔らかですが、どうにもそれだけではない。堅牢な骨組みを悟らせない技巧的な筆致の成せる業ではないかと想像します。軽々とした夢想ならば自由に飛べる、というわけではないことを、僕は嫌と言うほど知っています。

現実をいかに踏み越えて異界へと赴くか――これはファンタジーの書き手にとっては永遠の課題だと思いますが、この作品の見せる跳躍はあまりにも見事です。ごく自然に、それでいて遠くまで、すっと運び去られる感覚。ファンタジーを読む喜びを存分に味わえる瞬間です。

方言を主体とした生き生きとした会話や、可愛らしくも一筋縄ではいかない登場人物たち、異界での驚くべき出来事……娯楽的な読みどころももちろん満載で、頭から終わりまで、豊かな世界にたっぷりと浸ることができます。遊び心と冒険心に満ちた快作です。

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