見つめてくれるなら
とら太
第1話
俺が彼を始めて見たのは、多くの人が行きかう駅前の繁華街だった。
もう深夜だというのに、会社の飲み会帰りのサラリーマンや合コンの帰りであろう大学生のグループや、これからきっとラブホテルに行くんだろうなというカップル、たくさんの人が行きかう道のコンビニの前で、彼はタバコを吸っていた。
どこにでもある風景なのに、なぜか俺は彼から目を離すことが出来なかった。
俺は、退屈な会社の飲み会を抜け出して帰るところだった。
苦手なビールを飲まされたせいで頭がガンガン痛む。
コンビニで水でも買おう、そう思って道の反対側にあるコンビニに行こうとした。
そこに彼はいた。
小柄で華奢な体。明るい色の髪の毛は少しパーマがかかってる。
黒いTシャツにジーンズ。取り立てて目立つ要素はどこにもないのになぜか彼から目をそらすことが出来ない。
その時、彼がこちらを見た。
「!!」
思わず目をそらした。
もう一度、彼の方に目を向けるともうこっちを見てはいなかった。
一瞬見た彼の目はとても大きくつり目で鋭かった。
色白でどちらかというと小さな顔で大きなつり目、まるで女の子のような美少年。
早くなる鼓動。
「待て、俺は男だし、あれは女じゃない」
何をやってるんだ俺は。
意を決してコンビニへ向かった。
彼へと近づくにつれて早くなる鼓動。
「なんなんだよ…落ち着け俺…」
出来るだけ彼の方をみないように歩を進める。
入り口横の灰皿のところでタバコを吸う彼の横にさしかかったとき、一人のサラリーマンのような男性がこちらに向かってきた。
見たところ50代ぐらいだろうか。
恰幅のいい白髪交じりの頭で背広を着ている。
男性は俺を通りすぎて彼の前に立った。
彼はゆっくりと顔をあげると男性に向かって微笑んだ。
「なんだ、待ち合わせか」
店内へ入ろうとしたとき、少し声が聞こえた気がした。
振り返ると、彼は男性と立ち去ろうとしていた。
男性は彼の肩に手を回している。
なんだろう、この違和感…。
彼らの背中を見ていると、彼が振り返った。
その目は少し微笑んでいて、でも寂しげで、助けを求めてるように見えた。
俺は反射的に彼らを追いかけてた。
「あの!」
男性はいぶかしげに振り向く。
「なんですか?」
俺は男性の問いかけに答えず彼の腕をつかみ自分の方へ引き寄せた。
「え?俺はなにをやってんだ?」
彼は力なく俺の方へ引き寄せられた。
上目遣いで俺を見てニッコリと微笑む。
いや、目は笑ってない。
「なに?お兄さん」
見た目にそぐわないハスキーな声。
「いや、あの…」
「なんだよ。ツレがいたのかよ」
サラリーマンの男性はそう吐きすてて去っていった。
「ねぇ、痛いんだけど、離してくんない?」
ハッとして、手を離した。
「なに?お兄さんも俺とヤリたいの?」
掴まれた腕をさすりながら、俯く俺の顔を覗き込んでくる。
「は?俺はゲイじゃねぇよ!」
「ふぅーん。じゃあ仕事の邪魔しないでくんない?」
彼はそう言うと、ゆっくりと去っていった。
「仕事?」
そうか、そういうことか。
世の中には男同士でそういうことをしてお金をもらうビジネスゲイというものがあるらしい。彼もそのひとりってことか。
あの感じた違和感は、そういうことか。
なぜあんなにも彼に惹かれたんだろう。
彼はもう見えなくなってしまった。
どこの誰かも分からない彼に惹かれた理由は分からない。
さらに頭痛がひどくなってきた。
もう考えるのはよそう。
俺は、コンビニで水を買いそのまま帰路についた。
帰りつくとベッドに倒れ込みそのまま眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます