第2話
夢を見た。
何もない白い部屋。
誰かがうずくまっている。
ゆっくりと顔をあげる。
彼だ。
彼の頬は濡れていた。
「泣いてる?」
彼に駆け寄ろうとしたとき、目が覚めた。
「うーん」
ゆっくりと体を起こす。
まだ少し頭が痛い。
ひどく喉が乾いている。
時計を見ると8時になろうとしているところだった。
今日はせっかくの休みだというのに早く起きてしまった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気に飲み干す。
どうせやることもないし、もう一度寝るか。
ベッドに横になり目を閉じる。
夢に出てきた泣いている彼。
昨日の上目遣いで俺を見る彼。
浮かぶのは彼のことばかり…。
「なんなんだよ!どうしたんだよ、俺は!」
まるで一目惚れをした学生のように、繰り返し彼のことばかり考えてしまう。
「散歩がてらメシでも買い出しにいくか」
外に出ると晴れてはいるものの、冷たい風が頬を撫でる。
まだ11月半ばだというのに、近所の商店街はすっかりクリスマス一色だ。
「クリスマスか…」
クリスマスになんの予定もない俺には関係のないイベントだが妙にソワソワしてしまう。
買い物を済ませ、公園を抜けて帰ることにした。
公園では親子連れや、カップル、サッカーをする少年がいる。
なんの気無しにサッカーをしている少年たちの方に目をやった俺は動けなくなった。
鼓動が高鳴る。
少年たちと楽しそうにサッカーをしているのは紛れもなく昨晩みた彼だった。
あのときとはまるで違う表情。
楽しそうに笑い、声を上げて笑っている。
まるで別人だけど、間違いなく彼だった。
俺はまたもや目を離すことが出来なくなった。
ボールを追う彼を目で追い続けた。
ふと、彼の動きが止まりこちらを見た。
不思議そうにこちらを見ている。
煩いくらいに胸が鼓動を打つ。
頭がクラクラする。
なぜ、こんなにも、彼に、惹かれるのか。
彼がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
咄嗟に踵を返し立ち去ろうとしたとき、背後から声をかけられた。
「ねぇ、昨日のお兄さんだよね」
昨日と同じ、風貌に似合わないハスキーな声。
「あ、ああ…昨日の…」
喉が潰れたように声がかすれて出ない。
振り絞るように答えた。
「こーんなとこで会うなんて偶然だね。運命かな?」
笑顔で首をかしげながら、まるで無邪気な子供のようにそう言うと楽しそうに彼は笑った。
「運命ってなんだよ…」
顔が熱い。
気づいたかのように顔を覗き込んでくる。
「な、なんだよ」
「へつにぃー」
何がそんなに楽しいのか、クスクスと笑ってる。
「ねぇ、お兄さん名前なんていうの?俺はリュウ」
「え?名前?俺の?」
「他に誰がいんのよ」
また、クスクス笑う。
「俺は、マリオ」
「え?ルイージ?」
「うるせーよ!」
声をあげて笑う姿は、昨晩とはまるで別人のようだ。
「ねー、マリオ、家この辺なの?」
「あー、あのアパート」
「ふぅーん」
「じゃ、俺帰るから」
「そ、バイバーイ」
子供のようにぶんぶんと手を振る彼に見送られて家路についた。
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