第8話

家に帰りつき、ベッドへと倒れ込む。

なんだかひどく疲れた。

リュウを探して走り回ったからか。

何やってんだろうなぁ…俺…。

シャワーでも浴びようと立ち上がると携帯が鳴った。


「もしもし」

「俺だけど」

「あーうん」


ダイチだった。


「どうだった?どこいった?ん?」


楽しそうに聞いてくる。


「別に。あれからすぐ別れたし」

「おいおい重症だな。そんなにいい女だったのか?失恋した相手は」

「は?だから違うって言ってんだろ」

「まぁいいや、またいい娘集めてセッティングしてやっから」

「だからぁー」

「じゃあな!」


相変わらず人の話を聞かない奴だ。

でも、なんだかんだ心配してくれてるんだよな。


失恋か…。


失恋?


いや、そもそも失った?


それ以前に恋なのか?


もう自分自身が分からなくなってきた。


シャワー浴びて、今日はもう寝よう。

今日も、夢を見るのだろうか。


シャワーを浴びて体が冷えないうちにベッドへ潜りこんだ。

目を閉じて、眠りに落ちようとしたとき玄関で物音がしたような気がした。


「?」


しばらく暗闇の中、玄関の方を見ていたがもう音はしていない。

気のせいか…。

そう思って、もう一度目を閉じたときまた物音がした。

今度は確実に。


「??」


ベッドから出て玄関にそっと近づき覗き穴から見て見たが誰もいない。

意を決してドアを開けようとしたが、何故か開かない。

何かがドアの前にある?

力を込めてドアを開けると少しだけ開いた。


「なんだ?」


少しだけ開いた隙間から外を見ると、下に何か見える。

よく見るとそれはスニーカーだった。


「ん??」


誰かいる。

ドアに誰かもたれかかってる。


瞬間的に鼓動が跳ね上がる。


もう一度、力を込めてドアを押した。

体を出すことが出来る程度に開いたドアから顔を出して外をみた。


「リュ、リュウ?」


リュウがいた。

ドアにもたれかかり、俯いて座っている。

声をかけるとリュウはゆっくりとこちらを向いた。


「あ、マリオだぁー」

「なにやって…」

「マリオー」


フラフラと立ち上がり、俺に抱きついてきた。


「え、ちょ」


酒臭い。酔ってんのか。


「とりあえず入れよ」

「やったぁー」


リュウは、そそくさと中に入っていった。

何がなんだか分からないままドアをしめリュウの後を追った。


「酔ってんのかよ」

「ちょっとだけねー」


クスクスと楽しそうに笑っている。


「ねぇ、マリオ」

「ん?」

「あの人だれ?あの女の人」

「えっ?」

「この浮気者ぉーー」

「浮気って…会ったばかりでなんの関係もねーよ」

「ほんとに?」


リュウは上目遣いで俺の顔を覗き込む。

ああ…ダメだ。そんな目で…。


「嘘つく必要ないだろ」

「そっかぁーそうだよねぇー」


リュウは嬉しそうにクスクス笑っている。

それを見て俺もまた嬉しかった。


「よかった…」


ふいにリュウが俯いたまま呟いた。


「え?なに?」

「なんでもなーい」

「で?なんで来たのかな?」

「なんで?歩いてぇー!」

「交通手段じゃねぇーよ」

「んー?そりゃあマリオに会いにきたに決まってんじゃーん」


そういうとリュウは俺に体を預けてきた。


「マリオ、抱いてよ」

「えっ」


リュウは上目遣いで俺を見つめる。

鼓動が早くなる。

胸が熱くなる。

でも…。


「バーカ。酔っ払いとなんかやんねーよ」

「えー」

「水持ってくるから待ってろ」


立ち上がり冷蔵庫へ向かった。

胸の高鳴りを抑えつつミネラルウォーターを取り出しリュウを見るとすでに寝息をたてて眠っている。


「なんだよ」


ホッとしたような、残念なようなそんな気持ちで眠っているリュウの寝顔を眺めた。

白い肌、長いまつげ、艷やかな唇。

俺は自分の衝動を抑えるのに必死だった。

無防備な顔にそっと触れてみる。

ああ、俺は、リュウのこと…。


「こんなとこで寝たら風邪引くぞ」


声をかけたが全く目を覚ます気配はない。

リュウに毛布をかけ、俺はベッドへ入った。

でも眠れるはずもなかった。

眠ってしまったら、起きたときにリュウがいなくなっているかもしれない。

そう思うと、とてもじゃないが眠れるはずもなかった。

寝るのを諦めて、俺はリュウの隣に横になった。

あんなにも求めていたリュウがまたここにいる。

目の前にいる。


もう…


どこにも…


いくなよ…


そして俺はいつしか眠ってしまった。

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