第7話

仕事の忙しさに追われ、あっという間に1週間が過ぎた。

その間、リュウのことが頭から離れることはなかったが胸の痛みは少しだけ薄らいだ気がする。


「あー、今日か…」


気が重い。

しかし、気は紛れるかと仕事終わりにそのまま合コンの場所へと向かった。


場所はこの前と同じ居酒屋。


「もっと、気の利いたとこはなかったのかよ」


店内に入ると、ダイチとツバサがいた。


「おお、きたな。」

「よぉ」


ツバサは、ダイチと同じく高校の同級生だ。


「人数合わせに呼ばれたよ」


ツバサは、気が向かないという表情だ。

おそらくダイチに無理矢理連れてこられたのだろう。


「知り合いに頼んで可愛い子揃えてもらったからな!感謝しろよ!」

「いや、だから別に俺は…」

「いいから!な?」


「はぁ…」


そこへ、3人の女の子が来た。


「こんばんはぁー」


見ると、まぁそこそこ可愛い子が3人。

ダイチは「どうよ?」とニヤニヤしながらこちらを見ている。

女の子たちが席につくとお決まりの自己紹介。

俺の前に座った子はハルカと名乗った。


「マリオくんって、お仕事なにしてるの?」


マリオくんって…いきなり馴れ馴れしいこの感じ…苦手だ。


「え?普通に営業だけど」

「へぇーそうなんだ」


興味ないなら聞くなよ。

もう帰りたくて仕方なかった。

ダイチとツバサはそれなりに楽しんでいるようだ。


「俺、ちょっとトイレ」


トイレに入り、深くため息をつく。

そこへダイチが入ってきた。


「よぉ、どうよ?どの娘にする?やっぱハルカって子?おっぱいでけぇよなー。」

「別にタイプでもねぇよ」

「またまたぁー。邪魔しねぇから!な!」


ダイチは用を済ますとそれだけ言ってさっさと戻って行った。

まぁ、あの娘は確かに可愛いし普通の男なら好きになるだろうな…


普通の男?

いや、俺も普通の男…のはず…


ふいにリュウの顔が脳裏をよぎる。

胸がギュッと痛くなる。

頭を振り、答えの出ない思考の迷路から脱しようとする。

それは無理なんだけど。


手と顔を洗い、席へ戻った。


「長かったな!う○こか?」

「もう、やだぁー」

「ちげーよ」


2時間ほどして、合コンもそろそろ終わろうかという頃だった。

ハルカが俺に顔を近づけて小さな声で

「2人で抜けようか」と言ってきた。


「え?いや、俺は…」

「いいじゃん行こうよ。用事あるの?」

「ないけど…」

「じゃ、決まりね!」


会計を済ませ外に出ると、すぐにハルカが腕を絡ませてきた。


「お?いいねいいねー」


ダイチがニヤニヤしながら囃したてる。


「ちょ、ちょっと…」

「じゃーねー」


ハルカは俺の言うことも構わず歩き出す。


「ちょっとまってよ」

「なに?」

「どこいくの?」

「どこに行きたい?」

「どこって…」


そのとき、ふと視線を感じ目をやるとそこにリュウがいた。

胸が一気に熱くなる。

リュウは、表情を変えずこちらを見ている。

思わずハルカの腕を振りほどき、もう一度リュウがいた方へ目をやるとそこにはもうリュウの姿はなかった。


「ねぇ、もう、なに?」


ハルカがもう一度腕に絡み付こうとするのを遮り

「ごめん、用事思い出したから!」

俺は、リュウがいたところへ急いで向かった。


雑踏の中、リュウの姿を探すがどこにもいなかった。


俺は、幻でも見たのだろうか…


しばらく、周辺を探したがとうとうリュウを見つけることはできなかった。

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