第5話

いつの間にか眠ってしまったようだ。

あれは、夢だったのだろうか…。


カタン


玄関のドアが開く音がした。

音がした方へ目をやると、リュウが出ていくところだった。


「リュウ?」


俺の呼びかけに、動きを止めるとリュウは振り向くことなく

「またね」

そう言って出て行ってしまった。


待って…

待ってよ…


引き止める言葉は、声にならず、俺はひとり玄関を見つめた。

さっきまでリュウがいたであろう場所に手をやるとまだ少し温かい。


「はぁ…」


カーテンを開けるともう日が落ちかけている。

やけに体がだるい。

もう一度ベッドへ戻り、目を閉じると浮かぶのはリュウの潤んだ瞳、漏らす吐息、白い肌。


「はぁ…」


ため息しか出ない。

なぜリュウは、何も言わず帰ってしまったのか。

なぜ俺は、リュウを引き止められなかったのか。


なぜ俺は、リュウを抱いたのか。


何度も同じ事をぐるぐると考えてしまう。


もう、リュウに会えないような気がして胸が締め付けられるようで、叫び出しそうだった。


なぜ、こんなにも求めるのか。


考えても考えても考えても答えは出ない。


だから、考えるのを、やめた。


やめた…。


俺は携帯の電話帳から適当に暇そうなやつを探して電話をしてみた。


プルルルル プルルルル


「はい」


ほら、出た。

こいつは暇だと思ったよ。


「俺だけど、暇だろ?」

「あ?バカにしてんじゃねーよ」

「暇じゃないならいいや」

「まてまて、暇だよ。なんだよ」

「暇なのは知ってたわ。飲みいかねぇ?」

「おおいいぜ」


高校時代から何かとつるんでた悪友とバカ話でもしながら酒飲めば何も考えずに済むさ。

とりあえず、冷たい水で顔を洗い適当な服に着替えて財布と携帯だけを持って外へでた。

さっきまで夕方だったのにもう暗くなっている。

すっかり日が短くなったし、風も冷たい。


「さむっ」


もう冬だなぁ…

そんなことを考えながら駅へ向かった。

公園の中を通ると、さすがに人は誰もいない。

静まり返っている。


ここで、リュウと再会したんだ…


ずいぶん昔のことのように感じてしまう。

ほんの数日前のことなのに。


言いようのない寂しさを振り払い駅へと急いだ。



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