第6話 感謝の手紙~結婚式ver.~
お母さんへ。私は今日結婚して、月田さんの奥さんになります。24年間育ててくれてありがとう。お母さんは、私が6歳の時にお父さんと別れてから、女手一つで、私を育ててくれました。本当に、ありがとうございました。お母さんとは、一杯二人で色んなモノを食べたよね。
お父さんと別れる前に、二人して商店街の中のアンパンでは、いっつもあんみつを食べたよね。あそこのシロップと白玉が一つだけ色付きで、その色が今日は何色かを、二人して当てっこしたこと、すっごく楽しかったです。お母さんが一回だけ桃色って当てた時があったよね。私お母さんって天才かも!ってその時思いました。お母さん自身も驚いていたけれど。
お父さんと別れてから、一番初めに行ったのが、コッペパン亭だったよね。そこで力がつく食べ物を食べようって、二人してお肉を食べきれないのに頼んだよね。私は半分も食べれなくて、その後1ヵ月はお肉を見るのも嫌になりました。でも、お母さんは、私の分のお肉もモリモリ食べていたよね。なんだかあの時、私はお母さんが泣いている様に見えました。泣きながら食べている様に。ちょっとだけ怖かったです。
それからは、ご褒美として1ヵ月に1回は、夕食を外食することにしたよね。バンザイ亭の名物ハンバーグ定食、ユニコーンのイロドリご膳、ささらき食堂の特大コロッケと昔なじみのオムライスは、絶対注文しないと食べた気がしなかったよね。一回店長さんに無理言って、材料無くなったのに、スーパーに走らせたよね。私が泣いたから。店長さん困ってて、お母さんもあの時何度も何度も店長さんに謝っていて。私何がそんなに悪いことなのか、その時はさっぱり分からなかったけれど、今なら本当に悪いことだったなって言えるよ。でもね、私のそのことがあったから、今でもお母さんと店長さんの仲は続いているよね。私知っていたからね。二人が仲良しだったこと。でも、私のこともあるから、一切結婚しようとはしなかったよね。フランスでは、婚姻関係を結ばない関係もあるからって高校生の時に説明してくれたけれど、私はお母さんが幸せになれるなら、再婚して良いのにって思っていたんだよ。お母さんたちがその形で良いって言ったから、私は何も言わなかったけれど。毎週日曜日だけ、店長さんが私たちの家に泊まりに来た時も、私が年頃だからって、すっごく二人とも遠慮していたよね。そんなことしなくて良かったのに。むしろ私の方がお邪魔虫だったのかな? ってちょっと気にしていたんだよ? 知らなかったでしょう。時々、部屋に二人が良いムードになれる様に、お菓子を置いたり、飲み物を置いていたり。気づいていた? 私、どうにかして、二人に毎日一緒に居て欲しかったから、色々考えたんだよ。なのに2人とも頑なだったから、本当に途中は怒鳴り込みに行こうかと思ったよ。私がここまでしているのに!って。
でも、今ならそんなことしなくて良かったと思っています。だって、お母さんは、今日私と一緒に鳥田店長のところに嫁ぐんだから。お母さんも一緒に結婚するってなった時、どれだけ私が嬉しかったと思う? 月田さんに引かれちゃうくらい喜んだんだよ? 知らなかったでしょう? 本当に本当に私は嬉しくて、思わず目の前にあったコンサバの一番人気のイチゴムースケーキをおっとこしてしまったんだから! 信じられる? 1日5個は食べちゃった私がだよ?! それぐらい、私はお母さんの再婚を喜んでいたんだから。ほら、多分今も月田さんは、すごく苦笑いをしているよ。何度も何度も話すからしまいには、肩揉もうねーとか、お茶いれるねーとかわざとらしく話題を逸らされるようになったんだよ? だから、この話はここでおしまいにします。別の話をした方が得策だもんね。
お母さんとはケーキも沢山食べに行ったよね。デザートビュッフェももちろんだけれど、一年に一回の旅行、その時も必ずケーキ屋さん巡りしたよね。当たり外れが大きかったけれど。鍾乳洞を観に行った山口県では、とっても美味しいタルトのお店を見つけて、2人して興奮したね。あの時のお店、実は月田さんとも行ったんだ。めちゃくちゃ感動したところだったから。2回目もやっぱり美味しかったよ。でも時たま外れた時も、それはそれでいい思い出だねって笑ったよね。周りのお客さんの会話があんまりにも聞くに耐えなかった時は、ケーキ代が勿体なかったけれど、さっさと出たよね。なんだか地元の人たちが怖いって思ったのも、1回や2回じゃなかったけれど。あそこのケーキ屋さん、まだあるのかな? 私は怖くて二度と行けないお店です。他には、何故かその場に居遭わせたお客さんに観光までして貰ったこともあったよね。ケーキのうんちくから、町の絶景ビューまで。あの人、今日呼んでいるんだよ。多分手を振ってくれているはず。眼鏡かけたおじさん。手紙のやり取りもしたよね。まさか来てくれるってそんな嬉しいことに出会えるなんて思ってなかった。だから、今泣きそうです。だって、おじさんが今日の為にケーキも店主に掛け合ってくれて、作ってくれたんだよ? あの日2人して、こんなプリン・ア・ラ・モード食べたこと無いって感激したよね? だから、今日はプリンをベースに作って貰ったんだよ。お母さん、気がついたかなあ? って私チラチラ見ていたの分かった? お母さんだったら、多分珍しいケーキもあるのねえって気がつかないんだと思っていたら、しっかり気がついていたみたいだね。ちょっとホッとしたよ。おじさん、ありがとう!
石川県では、期間限定スイーツが食べれるってだけで、お母さんと一緒にそれを目当てにして行ったよね。他にも見る場所はあるのにって旅館の人たちにそう言われたけれど、あの時のスイーツは美味しかったね。だからこそ、めちゃくちゃ並んだかいもあったね。実は家でこっそり練習したんだ。同じ味を再現できないかな?って。だけれど、やっぱりお店の人はプロだね。どうやっても同じ味は出せなかったよ。そもそも、見た目ですら再現できなかったよ。あの時は、アイスの味が選べたよね。私がカシスとバニラにして、お母さんは変わり種で、抹茶とクルミにしていたよね。他にもチョコとかイチゴ、バナナ、ミントとか。全部食べたいって思ったけれど、無理だったね。寒い1月に食べたから、ちょっと季節無視していたかな? って笑っちゃったね。それでも、あそこのスイーツは美味しかったね。
東京は美味しいモノばかりだったね。東京タワーの近くの甘味屋さん覚えている?周りの人たちからは、あんまりお勧めされなかったけれど、言ってみたら噂と全く違っていたね。好き嫌いが分かれるからか、私たちにはピッタリ合ったね。お店の主人が、気さくな坊主頭だったことに驚いたけれど。お母さんあの時素で素っ頓狂な声を出したから、私まで恥ずかしかったよ。他にも、変わり種のケーキを出しているお店も一杯あったね。お腹が持つ限りは、いくらでも食べれたのにね。有名な野菜を使ったスイーツも、お茶を使った料理店も東京は珍しいものが一杯だねって話し合ったよね。並んでいた時に、いきなりカップルの男性の方が、「こんなのだったら俺でも作れる」って彼女さんに見栄を張っていた姿を見て、二人でクスクス嗤っちゃたよね。あの時は、男性って好きな人の前では、異常に大きく見せたいものなんだなって思ったよ。でも、彼女さんも誰それ君なら作れるもんね、言っていたから、お似合いのお二人なんだなって私はその人たちを見ていました。ああやって相手の言った事を包み込める、度量の大きい女性になりたいなって私はその時思ったんだ。お母さんも、別れるまでお父さんのことを大きく包んでいたなって私は思っていました。月田さんのこと、私も大きな心で包み込めれるかな?ってちょっと心配だったりします。だって、月田さんの方が、私のことを大きな心で抱きしめてくれているから。なんだか、私の方がいつも月田さんに優しくして貰っています。奥さんになるんだから、私が家では月田さんのことを癒してあげなきゃ、いつかお母さんから檄が飛んできそうだとそこは恐怖を抱いています。あ、あんまりお母さんのことを悪く言ったらダメだね。というか、悪く言っているつもりはないんだけれど、悪く捉えられたら、それは私は悲しいです。お母さんはお仕事しながら私を育ててくれたから、他の子と違って触れ合う時間は短かったかもしれない。時々周りの子が、お母さんと一緒にご飯を作ったとか、お母さんと一緒にショッピングをしたとか、テレビを一緒に観たとかで盛り上がっているのを、実は寂しく感じていました。お母さんは私たちの生活を守る為に、朝も夜も働ける時は頑張って働いていたから。時々お母さんのことをよく思わない言葉を聞いて、私はムカムカした気持ちを持ったことが何度かあります。お母さんのことをよくも知らないくせに、ただムカつくってだけで、嫌味を聞きました。本当はその人たちに、大声で反論したかったけれど、出来ませんでした。怖かったのもあるし、大声出しても嗤われそうだったこともあるし。色々考えて何も言えませんでした。ホント弱虫だったなって思った。でも、そのことをお母さんに話したら、お母さんは私の代わりに涙を溜めて、
「そんなことしなくていい。辛い思いさせてごめんね。」
って言ってくれたね。グズリ。あの時私は、もっとお母さんのことが好きになりました。だから、その後もお母さんのことをよく思っていない言葉を聞いても、反応しないように努めました。そうして毅然とした態度でいれば、その人たちと私たちは違うって認識出来たら、大丈夫だって気がつけたから。でも、それと同時に、寂しい気持ちもしました。そうやって他人のことを意地悪言う人たちが居るって事実もだけれど、それを分かった上で言ってくるって事柄にも。なんでそんな人たちに目をつけられなきゃいけないのかな? って悩んでいた時、中学校の保健室の先生が、暖かいレモンティーを入れてくれて、お話を聞いてくれました。私の学校でのお母さんでした。先生には、在学中、特に放課後になったら、お悩み相談室としてお世話になったよね。先生がゆっくりゆっくり話を聞いてくれて、保健室で飲むレモンティーが、すっごく私は高級茶みたいに思っていました。お母さんにも言えなかった初恋のことも、先生には話してしまいました。すっごく恥ずかしかったけれど、先生は全く恥ずかしいことじゃなくて、素敵なことよって教えてくれました。レモンティーは、私の中で悩みが解決するお茶、魔法のお茶って思うようになりました。今でも何か誰かとケンカしたら、レモンティー、誰かとすれ違ったらレモンティー。もちろん月田さんとも意見の食い違いがあったりして、数日間連絡しなかった時も、レモンティーを飲んで考え方を改めました。保健室の先生があの時優しくしてくれなかったら、今の私はありません。本当に先生、あの時はありがとう。そして、今日来てくれて、本当にありがとうございます。先生の変わらない姿に、私はすごく安心しました。あの頃、私のことを優しく撫でてくれた手で、今日「おめでとう」って言って貰えて、最高に嬉しかったです。グズリ。こんな、嬉しい人たちが、今日集まってくれて、私はなんて幸せ者なんだろうかと思っています。先生のレモンティーが嬉しかったから、今日はウェルカムドリンクをレモンティーベースにしました。皆にも私が安心した味を体験して欲しくて。だって、この式には、大好きな人たちを安心させたくて、大好きな人たちにリラックスした状態で会いたくて企画したからです。茶葉は今年のファーストティーを注文しました。だから、式の時期もこの時期に決めました。月田さんには一杯わがまま聞いて貰いました。ほとんど私の好みで揃えてもいいよって笑顔で言ってくれて本当にありがとう。いっつも月田さんの笑顔に支えられています。月田さんの式でのこだわりは、皆さんたちへのメッセージです。一人一人に心を込めて、書いたのを送るというものと、後は曲の選曲です。私たちの思い出が詰まった曲、ハッピーになれる曲、一杯一杯彼が考えて決めました。この曲順、曲集を初めて聞いたのは私です。めちゃめちゃこんなに素敵だと思わなくて、泣いちゃいました。曲を聴いて泣いたのは、数える程しかありません。月田さんのセンスは、本当にピカ一だと思っています。惚気です。
この式は二人の大好きを込めました。好きな曲、好きな花、好きな時間、好きな食べ物、好きな色、好きなものだらけです。もちろん参列者の皆様も好きな人たちを呼びました。私たちの好きなもので溢れたこの式を本日無事に行えて、すごくすごく感無量です。
お母さん、ここまで本当に私を育ててくれてありがとうございました。お母さんは私にとっていつまでも最高のお母さんです。これから幸せになります。お母さん、本当にありがとう!
短編集 翠 @Sui_00
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