第4話 言い訳
「泣くなよ」
そう言って私の目に溜まっている涙を指で拭ってくれる。
「泣かせている張本人が言うセリフじゃない」
最後の自尊心で、私はそう吐き捨てる。
そんな私を見て、困ったような顔になって、
「仕方ないだろう。似ていたんだから」
そう彼は自分を防御する。
そんなの言い訳だ。
気が付かなかった私が悪いの?
周りの人たちはこぞって私の方を攻撃する。
何も考えずについていったバカって。
相手の人が可哀想。加害者が被害者面するなって。
騙された私が悪いの?
騙した方は悪くないの?
そう心の中で何度も何度も再生する。
誰にもこの声は聞こえない。
聞こえたって即座に否定されるだけ。
「言ったことは全部本当だから」
聞きたくないのに縋ってしまいそう。
「でも私じゃなかった」
そう拗ねたように捉えられるのだろう言葉を吐くと、
「だから、それは堂々巡りの言葉だから」
忘れてくれよと聞こえたけれど、それはあなたの都合のいい言い分にしか取られない。
忘れてあげるわ、なんて言えたらカッコいいと賞賛されるのだろうか?
「同じセリフを同時に何人にも言っておいて?」
そう傷がつけばいいと憎しみを思いながら言うと、
「言っている時だけは、お前にだけだよ。ただ、他の時間は他の人にだけだったんだよ」
だからやっぱり都合が良いセリフ。
自分を守ることが第一の人間のセリフ。
そして私はそんな人にほだされただけのバカと関係無い他人は嘲笑していく。
――いい夢を見させて貰ったって思えばいいじゃない――
誰かが彼を擁護する様に、そう言ってきた。
良い夢……
夢は一生続くことがないから
捉えようのない一時の輝きだから
そんな風に解釈して噛みついたら、その人は私のことを「おこちゃまねえ」と嘲笑った。
「もっと大人になりなさいよ」とも続けられた。
――遊びを遊びだと受け取れないのなら、こんなところに来るべきじゃなかったのよ――
大人のフリして、と私はその人のことを蔑んだ。
「遊び」を望んだ覚えはなかったのに。
――ここは“遊ぶ”場所よ。皆それを踏まえているのに、それを分かっていない面して来られたら、周りが迷惑なだけだわ――
その人は尚もそう私に言い聞かせた。
〈遊びが解からないんなら、お家にお帰りなさい〉
そうも受け取れた。
「だからもう泣かないでくれ」
彼がそう言って困っている間は、まだ私のモノなんじゃないのかと思ってしまう自分の心が憎くなった。
まだこの人に執着を持っている、その事実が酷く虚しく感じた。
さっさと切り捨てるべきなのに、それが出来ないからきっと「おこちゃま」だと嗤われたのだ。そう考えると、腸が煮えたぎるような、全身から虚脱感を感じるような気分に見舞われた。
この人はいつまで私に「泣かないでくれ」と言い続けるのだろうか。
たった数分前まで愛していたはずの人を見つめて、私はこれから「大人」になるのだろう。
真実はいつだって闇の中だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます