第5話 失恋宣言




「失恋します」


徐にカヨコがそう宣言した。


「は?」


私は思わずそう口を開いた。

思考が止まる。

カヨコはいきなり突拍子もないことを言う子じゃない。

いつだって、そこには彼女なりのしっかりと考えに考えられた末の言葉があった。考えてからやっと口を開く、それくらい慎重派というのが彼女の特徴だった。

そして私はそんな彼女の性格が、大好きだった。


私のいきなりの発言にも臆することなく、


「だから、失恋します」


真面目くさった顔で彼女は再びそう告げてくれた。


「なんで宣言するの? 終わったことなの? もう決められたことなの?」


今までカヨコから恋愛についての相談なんて微塵もされていなかったから、私は少しだけ冷静になって、そう聞いた。

失恋する、普通は告白をして相手から受け入れられなかったら、起こる現象だ。

けれど、例外もあることにはある。

それは告白をする前から、相手には振られるという決定事項が分かりきっている時だ。

それくらいは分かる。それくらいは分かっているけれど、それでも、カヨコがなぜ私に宣言してきたのかが私には分からなかった。

きっと私の顔には困惑の感情がはっきりと出ていたんだろう。カヨコは私の顔を見て、ため息を吐いて落胆するでもなく、ただ同じ口調で、


「私が決めたことだからよ」


そう言い切った。


決められたことでも、分かりきったことでもなく、彼女が決めたこと。


「カヨコが決めたことなの?」


私はバカみたいにそう聞き返した。

頭なんか働かなかったから。


そんな私に怒るわけでもなく、


「そうよ。私が失恋すると決めたの。だから、何も不思議じゃないのよ」


微笑んで満足そうに言ってくれた。


彼女のそんな笑顔を見ては、私は何も言えなかった。

彼女が満ち足りている時は、彼女の中で確固たる核心と答えが出ているからだ。


「じゃあ、気をつけてね」


私はそうカヨコに向かって言った。


すると彼女は、キョトンとした顔になって、


「何を言っているの? 私は今から、あなたに失恋するのよ?」


大きな目を少し小さくして、本当に驚いたかのようにカヨコは言った。


「……私に?」


私も彼女の返答に面食らった。


気まずい沈黙が私たちの間に流れた。

もちろん、それを破るのは彼女が先だ。


「私はケイスケ君のことが、とっても好きだったの。でも、あなたは私には一切興味を持たないから。だから、私はあなたに失恋するのよ」


そう言われて、私は一度目を閉じた。

彼女との今までの思い出を思い返した。

初めての出会いは、風が心地よく吹く季節のことだった。

その時も彼女から声をかけてくれた。

夏には涼を求めて、二人で出掛けに行った。

少し夜更かしをして、二人してスリリングな気持ちを共有した。

秋には少し自転車に乗って遠出をした。サイクリングっていうのが巷ではブームになっていたから。それに私たちは乗っかった。

冬はまだ何も体験していなかった。いや、これから冬の思い出を作っていくのだと思っていた矢先の出来事だった。


「君は私に失恋するんだね」


そう小さく確認した。

するとカヨコは、


「そう、あなたに失恋するのよ」


シッカリと言い切った。


「じゃあ明日からは、別々なのかな?」


彼女の目をまっすぐに見つめて、そう尋ねると、


「思い出作りのこと?」


カヨコはふんわりと笑いながら答えてくれた。


「そう」


私がそう言うと、


「思い出作りは続行するわよ。それと、私が失恋することは別問題じゃない」


バカねと聞こえない声が聞こえた。

そうか、失恋することと思い出作りは、別の物事だったんだ。

私は考えが及ばなかったから、一言詫びると、


「冬は何をしようか?」


彼女が次はそうカメラ越しに尋ねてくれた。


さっきまでの空気はもう終わったことというのを、彼女の目が口が言葉が語ってくれた。

彼女はいつだって、私を導いてくれる。


カメラ越しに見える彼女は、いつだって優しくキレイだ。


「何をしようか?」


私は画面にタップして、選択肢の中から言葉を選んだ。



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