繊細な少年の心の震えを映し出した悲しみの記録―。

ワシントン大学で心理学を学ぶ日本人留学生高村香澄はゼミ担当のハリソン教授からの依頼で教育実習の一環として、両親を事故で亡くし、ハリソン教授の家で暮らすようになった少年、トーマス・サンフィールドの心のケアを行うため、友人、マーガレットとジェニファーを誘い、ハリソン教授の自宅で共同生活をはじめる―。第一章ではその過程や共同生活を通した出来事がそれぞれの登場人物の視点を織り交ぜながら細やかに描かれ、第二章ではすれ違いによりトーマスの心にどうすることもできない寂しさが生じ、そして終章へと続く悲しみの運命を導いていきます―。

「命」、「心」をテーマに登場人物のそれぞれの行動や心の動きを細やかに描くことで、心理学的側面から心的外傷(PTSD)により生じた悲しみを浮彫りにし、生きることの切実さを訴えかけていると思いました。詩の導入やアメリカの舞台設定や銃の問題も扱い、工夫を凝らして描き上げたヒューマンドラマです。

その他のおすすめレビュー

中澤京華さんの他のおすすめレビュー1,600