2011年にタイ王国を襲った洪水に被災した、日系企業の現地駐在員の方が、当時のご経験をもとに書かれた「企業小説」です。
降り続く雨、ひたひたと押し寄せる暗い水。自宅が被災していく従業員たち。自社の製品と機械を守りながら、自分達の安全も確保しなければならない緊張感。渋滞、不安定なライフライン供給、かかる費用。終わりの見えない不安と疲労。消耗していく気力と体力。味方であるはずの本社担当者の無能……。
次から次へと押し寄せてくる膨大な『敵』に、ひとつひとつ立ち向かっていく主人公達の姿に、胸が熱くなります。
余談ですが、当方、2004年の台風16号による高潮水害で被災しました。自動車は海水にやられて駄目になり、家具も泥だらけ。汚水の強烈なニオイの中、畳や写真を洗ったことを思い出しました。
その時、神戸から来て下さったボランティアの方が、「震災の時、こちらの県の皆さんが助けてくれました。だから、今度は僕らが来ました」と仰っていました。
人を助けるのは人ですね、本当に。
2011年にタイを襲った巨大洪水。
日系企業の社長・平田と従業員たちは、会社存亡をかけて戦う。
タイ行ったことないです。
読み始めるまで、あの年に洪水があったことすら忘れてました。
こんなに甚大な災害だったのですね……。
平田はタイに着任早々なので、まだ、こういうときタイ人従業員がどう振る舞うか、掴めていない。
(結果的には、日本人もタイ人もみんな頑張ってくれるんですが)
その状況で、究極の判断をくださなねばいけない試練の連続。
判断し、責任をとらねばならない「社長」の心労は、察するに余りあります。
ひたひたと着実に侵攻してくる、自然の脅威も怖いですが。
被災中でも、期日までに製品出荷しないと会社が死ぬ。
ってのが、今までに感じたことのない怖さでした……。
プロジェクトXのテーマ曲が聞こえてきそうです。
2011年に実際に起きたタイの大洪水がベースとなり、緊迫したリアルが全編に渡って繰り広げられていく。
奇しくも東日本大震災と同じ年だ。
水は命。だが、大量の水は暴力だ。自然の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。
本当に起きたことだから凄く生々しい。でも、それを伝える文章が秀逸であるからこそだ。
次から次に押し寄せる困難を乗り越えていく主人公。
今の最善の策を期限つきの中で決断していかねばならない彼に、もう悪いことが連鎖しないように祈りながら読んでいった。
乗り越えることができた人。乗り越えられなかった人。
最後にテーマが提示され、皆これについて考えがあるだろう。各々、何万通りもの答えがあるだろう。
人はいつかは必ず死ぬ。命が尽きる期限を決めているのは本当に神だろうか。
病気であれ、災害であれ、人間は苦難に耐えられるか、いつでも試されている。
そこに理不尽があったとしても、避けようもなく。
企業を守る戦士たちの話だが、やはり人は会社とではなく、人と仕事をしている。
普段から信頼をおける接し方をしていれば、プライドと責任を持って仕事をしていれば、報われることがあると信じて突き進みたい。
2011年に起きたタイの大洪水を覚えていますか?
多くの日本人にとっては遠い国の出来事だったはずです。
「現地の人たちはタイヘンだろうなぁ」
人間なんて自分と直接関わりがなければニュースから流れる惨状を見ても思うことはそんな程度。
心配も同情もするけれど「他人事」「遠いところの出来事」そんな風に思ってしまいます。
「街が沈む」なんて言葉では簡単に書けます。
でももし自分の今いる場所だったら?
自分の会社や工場がある場所だったら?
本作品はほぼノンフィクションで描かれる「サラリーマンが直面した大災害」に立ち向かう物語です。
息をつめて読んでしまうほどの緊迫感が画面を通して伝わってきます。
これでもか、これでもかと襲い掛かる試練に「もう勘弁してあげて」とどれだけ思ったことか。
ほぼノンフィクションとわかっていても「これは作り話であってほしい」とどれだけ思ったことか。
ノベル0「第二回 大人が読みたいエンタメ小説コンテスト」参加作品です。
本作の主人公こそ「戦う成人男性」「戦うおっさん」です。
紙の本にすべき、後世に語り継ぐべき物語です。
タイには行ったこともないし、知り合いもいないし、あまり興味もない。
そんな方でも恐らくMade in アジア、Made in タイの製品と無縁の方は少ないでしょう。
ワタシ達の穏やかな「いつもどおり」の生活はこの主人公を始めとする海外で働く人達に支えてもらってる。
こういう方達が戦っていてくれているからこそ「いつもの」生活が送れる。
今までこの大災害を知らなさすぎました。
恥ずかしくなるほどに知りませんでした。
でもこの先も「知らないまま」でいないために。
どうかこの作品を手に取ってください。
皆が知るべき真実がここにあります。
どうかエピローグまで読んでください。
最後の最後まで読んでください。
この本作を生み出した作者さまと大勢の名もなき「戦うおっさん」に心からの敬意と感謝をこめて。
派手なアクションがあるわけでもなく、特別な能力を授けられたわけでもない……実話を基にしているこの作品。昨日までの平穏な日常が、突然、自然災害によって刻一刻と悪夢に変わって行く様子が鮮明に描かれている。体験者ならではの熱い語り口と、現実味あふれる登場人物達に親近感を覚え、物語にどんどん引き込まれていく。
かつて、会社のために全てを犠牲にして働くサラリーマンを「企業戦士」と呼び、もてはやした時代があった。この作品はまさに彼ら「戦士達の物語」だ。
最悪の状況に置かれてこそ、日本人は手を取り合い、不屈の精神でがむしゃらに未来に向かって突き進んで行く。先の大戦後も、そして近年の大震災の後も。誰もが逃げ出したくなるような絶望的な状況下で、大切なものを守るという使命感に燃え、何度も心が折れそうになりながらも一縷の光を信じて戦い続けた彼ら企業人の強さを、同じ日本人として誇らしく思うと同時に、人と人との繋がりの大切さを痛感させられる作品である。
平凡な日々を繰り返す事が無意味に感じたり、密接な人間関係が煩わしいと感じた時に、ぜひとも読んで頂きたい。
ノンフィクションをベースに、微笑みの国タイへと赴任した日本人を主人公としたドラマです。
舞台となるのは、ニュースでも報じられたタイの大洪水による大災害の真っ只中になります。
ニュースでは決して語られない、災害の真っ只中に立った人たちが、何を思い、悩み、足掻き、そして戦い続けたのかを、リアルな視点から描かれています。
作品の特徴としましては、ノンフィクションをリアルタイムで物語にしてあるがゆえに、『答え』がないということです。
次から次に襲いかかる難題を、クリアするために判断と決断を下さなければならない。しかも主人公は現地法人の社長であるため、自分以外には決断を下す人はいないという状況での決断となりますので、その苦悩にはまさに息を飲まされます。
数々の試練と困難を通じて、人々が復興に向けて立ち向かう姿は、感動はもちろんですが、それ以上に大切な何かを 考えさせられるものがありました。
こう書きますと、重苦しい雰囲気で敬遠されがちになりますが、その点は問題ありません。緩急の効いたストーリー仕立てですので、安心して読むことができます。
戦うおっさんがテーマですが、テーマに縛られることなく、幅広い年代の方に一度は読んでいただき、自分なりに考えてもらいたい傑作です!!