読み書きもできない女の子を宮廷魔術師が立派なレディに育てる、心ときめくシンデレラストーリー。
この設定だけで、心だけはいつまでも乙女な私は撃ち抜かれました。と同時に、ヒロインはさぞや苦労するのではないか、という不安もありました。
確かにヒロイン・いろはは慣れぬ貴族の館での生活に戸惑います。そして、頑張りすぎて無理をしてしまうこともあります。
けれど彼女を取り巻く周りの皆は、どんな時もあたたかくいろはを支えてくれるのです。
それは、いろはの持ち前の旺盛な好奇心と天衣無縫ともいえる無邪気さに皆が惹かれたから。
エピソードごとに起こるイベントは、まるで絵巻物を開くかのように美しく楽しく優しく、一話読むたびに風景と香りを楽しむことができます。
繊細で華麗な筆致が織り成す、香り高い和の世界に、一足早い春を堪能いたしました。
ひょんなことから捕らえられてしまった孤児、“いろは”。場合によっては重い刑も覚悟しなければならなかった彼女に課された務めは、レディになること!?
そんな彼女の教育係を申しつけられたのは、とある一人の独身貴族男子。慣れない任務に戸惑いながらも、頼りになる周囲の人たちの力を借りて奮闘します。そうしているうちに義務的だった二人の関係は、季節の移り変わりとともに少しずつ変化していくのです。
はじめは“いろは”の成長が微笑ましいのだと思っていたのですが、途中からそうではないことに気付いてきました。成長していたのは“いろは”だけではなく、圭人の方でもあったのです。
お互いのやり取りの中で、お互いに成長していく。成長が成長を呼んでいるような関係性が、恋愛感情を抜きにしてもとても微笑ましく思えました。
どちらがどれだけ良かったというのでなく、「この二人だからこそ」、こんなにも素敵な結末になったのでしょう。
終始、なんだかいい匂いがしているお話でした。それはときにお花であり、スイーツであり、果物であり、ポプリであり。
そんな中、そうした描写がないときも常に醸し出されているものがあります。ずっとそれが何なのか分からなかったのですが、最後まで読んでみると、「もしかしたら…」と思えるものに思い当たるのです。
温かくて、優しくて、すべてを包み込んでくれるような、ほんわりとしたその香りは、最初から最後まで二人のそばを離れませんでした。あれがきっと、幸せというものの香りなのだと思いました。
優しく繊細な文章は、まるで桜のようです。
そう、タイトルの一部にもある桜。
桜咲く季節から始まった、和風「マイ・フェア・レディ」
礼儀作法どころか、読み書きもできない無垢な少女いろはを、愛らしいだけではない女王様の命令でレディに育て上げることになった主人公圭人。
独身貴族だけあって、初めからうまくいくわけもなく――。
気がついたら、いろはに関わった人たちと一緒に、わたしたち読者もいろはの魅力に気がついていくことでしょう。
親しみやすい世界観の中で、主人公圭人といろはの成長を時に応援し、時に微笑ましい気持ちで、これから読むという方は、見守ってほしいです。