アフターストーリー「神様談義」

 生と死の双子神ルヴェルレヴェル。

 双子神の名の通り、それは兄弟神の名である。

 1人は、生……すなわち命の神である兄神、ルヴェル。

 1人は死の神であり妹神レヴェル。

 命の誕生を祝福するという兄神ルヴェルと違い、死の際に迎えに来ると伝えられる妹神レヴェルは恐れられる存在である。


 特に子供は「悪い事をするとレヴェルが来るぞ」と脅されるし、大人にも「死の間際にはレヴェルが見えるようになる」という話が伝わっていたりする。

 そしてその一部は実は本当だったりするのだが……ともかく、レヴェルはそうして恐れられる神だということである。

 何故そうなっているのかといえば世界中に散らばったレヴェルの力によるものだったりするし、レヴェル自身あまり良い趣味ではないとも思っている。

 しかしながら此処に居るレヴェルは多少複雑な経緯により生まれた「本物とは多少異なるレヴェル」であったりする為、どうする事も出来はしない。


 つまり、レヴェルは変わらず恐れられる神であるということなのだが……そんな彼女が此処に居る事を歓迎する者達も居る。

 ルヴェルレヴェルの神殿とその神官達。つまりレヴェルを神として畏れ敬う者達だ。

 彼等はレヴェルが現代の地上に降り立っている事を強く歓迎し、いまにも彼女を祭壇に祀りそうな勢いである。

 具体的には教義を修正する為に毎日のように質問攻めにしているのだが……レヴェルとしては、あまり楽しいものでもない。

 

 そもそもルヴェルレヴェルの神殿と信仰は彼等が勝手に作ったもので、ルヴェルやレヴェルが「そうあれ」などと一言も言ってはいないものだ。

 レヴェルからしてみれば勝手に作られたファンクラブに近く、しかも本人の言ってない事を本人が言ったかのように語る連中だ。あまり好きではない。


 しかしながら教義は「より正しい生活を」と言ったものである為、それ自体はあまり嫌いでもない。

 その為、嫌々ながら付き合っているのが現状……なのだが。


「正直疲れるのよね」

「ふーん……大変だね」

「なによ、そんな他人事みたいに」


 聖国のクランリーダーの部屋。

 ソファに座ってお茶を飲んでいたカナメの気楽そうな返事に、レヴェルは不満そうな声をあげる。

 そもそもレヴェルが今この場に居るのは、カナメが原因なのだ。

 いきなり死にかけるような真似を何度も繰り返して「レヴェルの力」に触れすぎた為、この世界で一番縁が強い神はレヴェルであり……それがカナメとレヴェルを繋げる原因となった。

 だからこそ、今のレヴェルの苦労はカナメのせいでもある。少なくとも、レヴェルとしてはそういう見解だ。


「大体、貴方だって『レクスオール』なんだからレクスオール神殿から色々聞かれてるんじゃないの?」

「って言ってもなあ。俺、『レクスオールの力』は使えても『レクスオールの記憶』はほとんど無いし」

「ほとんど……って事は少しはあるの?」

「うん、少しね。元の世界の記憶が消えてく代わりに、『レクスオールの記憶』が時々チラつくんだ」


 それは間違いなく大神殿に仕掛けられたディオスの魔法のせいだろう、とレヴェルは思う。

 あの魔法の事しか頭にない冷血漢の魔法の神が大神殿に施したのは、生まれ変わった神に「前の記憶」を焼き付け世界に散らばった力を収束させる為のものだ。

 それがカナメの頭の中から元の世界の記憶を消し去っていたとしても、おかしくはない。


「……そう。でもその割には、あまり深刻そうではないわね」

「まあね。忘れたせいかもしれないけど、悲しくは無いし。こっちに大切な人もたくさん出来たしね」

「戻りたいとは、思わない?」

「だったらこっちに戻っては来ないよ」

「……そうね」


 破壊神との最後の戦い。

 あの日世界から消えたカナメは、再びこの世界へと帰ってきた。

 その間に何があったのかはカナメも語ろうとはしないし、レヴェルも聞こうとは思わない。


 カナメはこの世界に戻ってきた。

 その事実だけで充分だったからだ。


「それで? レクスオール神殿の連中は、貴方にどうこう言わないの?」

「言わないよ。あの人達は身体を鍛えるのが使命みたいなものらしいし」

「レクスオールって、筋肉の神か何かだったかしら」

「レクスオールの戦いの役に立つ、が目的らしいからなあ……」


 破壊神との戦いで分かった弱点を元に、改善を図るのが今の目的……だというのは神官長であるイリスの言葉だ。

 イリス自身は然程マッチョでもないのに見た目の筋肉量が2倍以上の大男をブッ飛ばすのは、何度見ても不思議な光景だが、レクスオール神殿の神官戦士達は大体がその類でもある。


「羨ましいものね」

「羨ましい、かなあ……?」

「羨ましいわよ。何故何故どうして、と毎日のように聞かれる身になってご覧なさい?」

「うーん……筋肉とどっちがマシかなあ」

「私に関わってこないなら筋肉でも構わないわよ?」


 そんなレヴェルの言葉に、カナメはクスリと笑って。

 レヴェルは、ピクリと眉を吊り上げる。


「何か面白かったかしら?」

「いや……レヴェルって実は結構めんどくさがりだよなって思って」

「……今度レクスオールにも話を聞けって伝えといてあげるわ」

「やめてくれよ……」


 本気で嫌そうな顔で呟いたカナメに……レヴェルはようやく楽しそうに微笑むのだった。

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異空のレクスオール 天野ハザマ @amanohazama

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