第10話 お祭り騒ぎですが、何か?

さて、リード付きとはいいながら、俺とトラ兄ィは、久しぶりに外の空気を吸いながら、散歩を堪能した。


お互い、これまであった事や、当時の仲間達が今どうしてるだろうか、等々。

スーパーに着くと、ご主人様達はスーパーで買い物を済ませ、俺達はスーパーの軒先でご主人様が買い物をしている間はリラックスし、買い物を済ませたご主人様と合流、そのままトラ兄ィのご主人様の家に戻った。


「おーい。帰ったぞ!」

トラ兄ィのご主人様はそう言いながら、俺達のリードを外してくれた。すると・・・・。

兄貴あにき。邪魔してるで。」

「おお。光太郎か。」

何か、おっさんが出迎えに出てきた。

「お前、今日酒盛りするって、よくわかったな?」

「ああ義姉ねえさんが電話くれたんよ。折角やから、うちのカミさんも一緒にってことで。」

しかし、このおっさんの顔をみた俺のご主人の表情が見る見る変わる。

「おとうさん!!!」

お、おとうさん?このもっさいおっさんが、ご主人様のお父さん?????


いやいやいや、マジでありえんだろ!!!!!


「おとうさん!何よその格好!」

「は?何かおかしいか?」

「あのねぇ・・・・。何時も言ってるでしょ?幾ら伯父さんの家だからって、もっとな格好して来てよ!」

「いや、十分な格好やと思うぞ?」

「もう・・・・、恥ずかしいからやめて・・・・。」

うちのご主人様は頭を抱えている。

「母さんは?」

「ああ、台所で義姉さんと料理作っとるわ。」


すると、もっさいおっさん・・・・、じゃなかった、ご主人様のお父さんは、トラ兄ィを抱え上げた。

「おう!トラジャ!相変わらず男前やのう!」

トラ兄ィは『ニャー』と一声、愛想を振りまく。

どうやら、トラ兄ィは面識があるみたいだ。


ここまでの流れを考えてみると、どうやら、トラ兄ィのご主人様と、俺のご主人様のお父さんは兄弟のようだ。

外見はもっさいおっさんだが、トラ兄ィのご主人様と同じく、猫好きの人間のいい匂いがする。


「兄貴。飯出来るまで、一杯やろうや。」

「そうだな。一杯やるか。」


二人はそう言いながら、買い物の荷物を持って、リビングに入っていく。

「さあ、マサムネ。おいで。私達も行くよ。」

ご主人様は、だいぶ、俺の抱き方に慣れてきたようだ。

以前に比べ、抱き方が安定してきたように見える。


さて、リビングに入ってみると・・・・。


ご主人様の伯母さんともう一人、スレンダーな美人の女性が、髪を後ろに括り、料理に勤しんでいる。

美幸みゆきさん、ちょっと中華鍋お願い。」

「はい。」


台所から、何ともいい匂いが漂ってきた。


「しかし、光太郎、お前、なかなか準備がいいじゃねぇか。」

「やろー?洋酒とそれに合う持ってきたでー。」

「じゃあ、一杯やるか!」

「ほな、兄貴。バーボン行っとくか?」

「おう、いいじゃねぇか。」

男どもは酒盛りを始めた。

俺とトラ兄ィは、リビングでくつろいでいる。俺のご主人様は、俺とトラ兄ィの背中を優しく撫でながら、ご満悦のようだ。

「おい!美優!お前もこっち来て、一杯やれや!」

「えー?私はいいよ・・・・。」

「何いうとんねん。親父の酒が飲まれへんのか?」

「はー。分かったわよ。でも、ほどほどにしてよ?」

「分かっとるって!」

「そう言いながら、何時も英典伯父さんに迷惑かけてるじゃん。」

「まあまあ、美優ちゃん。今日はめでてぇ日だ。大目に見てやんなって。」


二人に促され、俺のご主人様は、男どもの酒盛りに加わった。


「で、兄貴。今日は何の祝いなんや?」

「おお。美優ちゃんののお祝いだ。」

?」

「おう。美優ちゃんが猫を飼う事になってなぁー。」

その時、もっさいおっさんの表情が見る見る険しくなった。

「は?兄貴。それ、どういうこっちゃ。」

「どうもこうも、俺が今言った通りだ。」

「いやいやいや、意味わからんって!第一猫って。」

「ほれ、トラジャの隣に居るだろうがよ?隻眼の黒猫が。」

「へ?」

「あれが美優ちゃんの飼い猫だ。」

「え?あの黒いの、シノノメの代わりの兄貴ん家のちゃうの?」

「いや、正真正銘、美優ちゃんの飼い猫だ。」

「はー?ワシ、そんな話聞いてないで!」

「そりゃそうだ。さっき決まったばっかりだからなぁ。」

「おい!美優!それ、ホンマか?」

「うん。そう。」

「簡単に言うな!第一、兄貴のマンション、ペット禁止やろ!」

「それなら、俺が許可を出したんだよ。」

「おい!美優!お前、兄貴に無茶振りしたんやろ?ワガママ言うたんか?」

「・・・・。」

「美優!答えんか!!!」

「おい、ちィたぁ落ち着け、光太郎。美優ちゃんの話も聞いてやんな。」


また俺の事で揉めている・・・・。

俺は皆のやり取りでそうわかった。


「・・・・。おとうさん。私、覚悟が出来たの。」

「覚悟?」

「そう。この子の命を一生掛けて護る覚悟が出来たの。」

「・・・・。」

「お父さん、私が高校受験の時言ったよね?仔猫を拾って来たときに、『この子を護る覚悟があるのか?』って。」

「おう。言うたぞ。」

「あの子はね、車に轢かれて、瀕死の状態だったの。しかも轢いた相手は飲酒運転してたの。それで私は注意したわ。そしたら、相手は何て言ったと思う?『たかが猫で』って言ったのよ?お父さん、そんな人、許せる?」

「・・・・。」

「お父さん、私に言ったよね?人間だろうが、猫だろうが、命の重さは変わりないって。お父さんがその場に居たら、黙って見過ごせる?」

「見過ごせる訳ないやろ・・・・。」

「だから、私は助けた。お医者さんにも言われたわ。『助けた後、この子を育てる覚悟はあるのか?どんな障害が残っても、最後まで面倒を見る覚悟はあるのか?』って。私は『はい』って即答したわ。この子は、マサムネは必死に生きようとしてたもの。」

「・・・・。」

「だから、英典伯父さんも説得した。私は、この子を護る為ならなんだってする。そう決めたの。」

すると、もっさいおっさんは黙り込んだ。

「なぁ光太郎。美優ちゃんの覚悟は半端じゃねぇぞ。片目が不自由なあの黒猫を護ると言い切ってんだ。その熱意に俺も打たれた。だから、許可したんだよ。」

「兄貴・・・・。」

「そりゃ、親からすりゃあ、子供は何歳になろうが子供だ。だがな、美優ちゃんももう立派な大人だ。そろそろ信じてやっちゃあ、やれねぇーか?」

「・・・・。」


その時、台所から料理を持って、女性陣がやってきた。


「光太郎さん、貴方の負けね。今回は、美優の言ってる事、やった事の方が筋が通ってるわ。」

「美幸・・・・。」

「お母さん。」

「美優、大人になったわね。その黒猫ちゃん。大事にしてあげなさい。」

「ありがとう。お母さん。」

「但し、お父さんもお母さんも助けないわよ?いい?」

「うん。」

「で、名前は何ていうの?」

「マサムネ。伊達政宗のように、隻眼だけど、逞しく育って欲しいから、マサムネにしたの。」

「そう。」


すると、スレンダーな女性は俺の所にやってきた。

そして、俺の顔を見てこう言った。


「マサムネ君。美優をよろしくね。」

俺は『ニャー』と一声鳴いた。

「あら、中々のイケニャンじゃない。」

女性は俺を抱きかかえた。

「毛並みも良くてモフモフw」


女性からは、ほのかに巨乳の匂いがした。


「ほら、光太郎さんも抱いてみて。可愛いわよ。」


女性に促され、俺は女性から、もっさいおっさんに手渡された。

おっさんは俺を抱きかかえると、俺の顔をじっと見た。

するとどうだろう・・・・。

おっさんの顔が見る見るくしゃくしゃになった。

「お前・・・・。大変やったなー。辛かったやろー?」


おっさんは俺に頬ずりをする。

おっさんの流す涙と髭でチクチク感とひんやり感が何とも言えない。


「よーし、分かった!そこまで言うんやったら、マサムネを皆で守ろうやないか!」

「はー?」


おい、ちょっと待て!

俺のご主人様は美優様だ!

こんな、もっさいおっさんがご主人様なんて嫌だ!


「美優!マサムネを俺に譲れ!」

「嫌よ!」

「譲れ!」

「なんでそうなるのよ!」


人間達は美優様とおっさんのやりとりに爆笑している。


そしてその夜。

人間共はドンちゃん騒ぎで盛り上がった。

俺も、トラ兄ィも、久しぶりにマグロの刺身を味わった。

皆、幸せそうだ。


「クロ助。いや、マサムネ。よかったな。」

「トラ兄ィ。」

「これで、お前も皆が認めるマサムネって名前の飼い猫だ。」

「勘弁してくださいよ。トラ兄ィは今まで通り、クロ助でいいっスよー。なんか、トラ兄ィにマサムネって呼ばれると、恥ずかしいっスよ。」

「照れるなって。な!マ・サ・ム・ネ!」


俺は、体中がこそばゆかった。

だが、人間達が皆笑顔になって良かったと思った。


俺の飼い猫としての猫生ねこせいは始まったばかりだ。

そして、美優様の両親が、ことある事に美優様の家にやってきて、俺の事を滅茶苦茶可愛がるのだが・・・・。

それは、また別の話だ。


【つづく】













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