第4話  やっとプロローグですが、何か?

「もう大丈夫だよ…。」

んん?なんだ?この優しい声は?

「もうゆっくりして、いいんだよ。」

んん?なんだ?この暖かい手触りは…。

「私が、あなたを守ってあげるから…。」

この声、人間の言葉か?しかも女性の声…。


誰だ?一体…。


「…、おい!黒いの!くーろーいーのー!!!」

俺はミルクの声で目が覚めた。

「お前、また寝てたのか?よく寝るなー。」

ミルクはそう言いながら、自分の毛づくろいをしている。

そして、もう一匹…。

「おい、黒いの。傷の具合がどう?」

「ぷぷ、『ニャ』だってよ。これだから飼い猫は…。」

「うるさい!笑う!お前だって飼いこだろ!」

「お前と一緒にするな!オイラは保護猫だ!お前みたいな、ニャーニャー言ってる根っからの飼い猫とは違うんだよw」

「ふん!野良上がりが偉そうに言うニャ!俺のご主人様は、ここの医院長ニャ!」

「二匹とも、少し静かにしろよ…。病院だろ?ここ。」


俺がここの病院に来て、やっと一週間が過ぎた。

俺の隣のベットに居るミルクは、相変わらずだ。

そして、ミルクと言い合っていた猫は、小太郎。ここの医院長の飼い猫らしい。背中は茶トラ柄だが、お腹は白い。多分人間の言うところの雑種だろう。

そして、肥満気味の巨体。多分、飼い主から十分餌を与えて貰っているのだろう。

しかし、語尾のが少々鼻につく。


「知ってるか?黒いの。生まれた時からの飼い猫は、な、に、ぬ、ね、の、の発音が、ニャ、ニィ、ニュ、ニェ、ニョになるんだぜw」

「?」

「どうせこいつ、子猫の頃からご主人様に間違った猫語を教わったんだろw」

 ミルクによると、生まれたときからの飼い猫は、ご主人様が猫と会話してるつもりで、『なにぬねの』を『ニャニィニュニェニョ』と話し掛けるらしい。

 理由は、どうも俺達の鳴き声や会話が、人間には『ニャー』としか聞こえない所から来ているらしい。だから、猫同士で会話してても、それが出るというのだ。


「しかし、本当に大変だったんだからニャ。俺のご主人様じゃニャかったら、お前、今頃虹の橋を渡ってたところだったんだからニャ!」

「嘘つくなよ…。元々黒いのの体が丈夫だったんだよ!」

「ニャニィおーーー!この!」

「うるせえ、デブ猫!」

「ニャニィ言ってるw男の癖ニィ『ミルク』ってwセンス悪w」

「お前だって、デブの癖に『小太郎』だろうがw」

「だから、うるさいって!二匹共。」

俺は、二匹をたしなめる。

「大声出させるなよ。俺はただでさえ、全身が痛くて大変なのに、大声出したら体に響くんだよ…。」

二匹は俺の仲裁もお構いなしに、まだ言い合ってる。


ミルクはご主人様の意向で、を取られたらしい。しかし、当のミルクはというと…。

「こんなのぶら下がってても、邪魔なだけwそれに、オイラは野良の時にヤりまくったからなwもう飽きたw」

と、あっけらかんとしている。

そんなミルクも、小太郎の話では明日にもご主人様の元に帰るらしい。

それはそれで寂しくはなる。

こいつは、またご主人様の元で幸せに暮らすのだろう…。


それに比べて、俺の処遇は決まっていない。

というか、俺は俺を保護した人を知らない…。

一体どんな人間なんだろう?

毎回夢に出てくるような優しい人ならいいが…。


でも、人間が気まぐれな生き物なのは、俺が一番知っている。


皆とはぐれた後、あの冬の雪の降りしきるクソ寒い日に、一旦拾われて、安心して寝ていたら、起きたらまた外に捨てられていた。

だから、あの日以来、俺は人間という生き物は信じないことにしたんだ。

どうせ、この病院だって、飼い猫相手の商売にしか過ぎないだろう。

医者の考えなんて、底が知れてる。

表向きは偽善を装ってても、俺達で一儲けしてるだけだ。


と、思っていた。


 しかし、信じられない事に、ここの人間達には、不思議とそういったがしない。皆、俺達に好意的なしかしないのである。


 そしてもう一つ、不思議な事がある。


 この病院に来てから、人間の言葉が理解できるようになったのだ。


 何を言っているかは勿論、文字まで読めるようになってしまったのである。

流石に言葉までは操れないが、人間同士の会話ははっきり分かる。


 最初は、正直耳を疑った。

 頭を打っておかしくなったのか?それともに行ったのか?それとも俺自身が人間になったのか…?色々考えた。

 しかし、ミルクや小太郎達と普通に会話はしてるし、第一、体の節々や、右目も痛い。

 体も猫そのものだ。

 だが、ここへ来てからというもの、人間達の会話がはっきりと分かる。

 これは、もう認めざるを得なかった。

 

 そして、分かった事は…。

 小太郎のご主人であり、ここの病院の医院長は大槻恵という腕利きの医者であるということ。

 俺を保護した人は、林美優という女性だということ。

 で、その林美優という女性が俺を飼う気満々であること。

 俺の右目はもう見えないということ。

 俺は、車にはねられたにも関わらず、右目を失っただけで、外傷も内蔵も異常がなかったということ、等々。


 確かに小太郎が教えてくれた事も含まれているが、殆どが俺が人間同士の会話を聞いて、理解できたから知ることができた情報だ。

 俺が、その林美優なる女性と会えて無いのは、大槻恵という医者の判断で、会わせないようにしている事も、俺は知っている。


 駄菓子菓子…。

 何でこうなった?

 何の因果で人間の言葉が完璧に理解できるようになった?

 何でそこらの安物のライトノベルや漫画みたいな、になっている?

 おかしいだろ!!!!

 おかしすぎるだろ!!!!

 猫が人間の言葉を完璧に理解できる上に、文字まで読めるなんて何の冗談だ?!

 ファンタジーにも程があるだろ?!

 

 !!!!!!!!!!


 ま、それは置いといて、だ。

 冷静になれ、俺。

 ここはポジティブに行こう。

 人間の言葉が理解できるということは、かえって好都合じゃマイカw

 人間の言葉が理解できる以上、人間に媚びへつらう必要も無い。

 更に一歩進んで、人間の考えを逆手に取る事もできる。

 

 だが、デメリットもある。

 

 俺が、人間の言葉が理解できる事がバレた場合だ。


 人間の事だ。

 俺を利用して、一儲けする輩も出てくるかもしれない。

 人間はなまじ知恵が回る。それは認めざるを得ない。

 

 むー。

 全く、厄介な展開になったものだ。

 

 駄菓子菓子…。

 幸い、俺は暫く動けそうもない。

 ここは一つ、をしてやり過ごして、人間共の出方を見よう。

 うん。俺の本能がそう訴えている。

 傷が癒えるまでは、日和見ひよりみを決め込もう。

 あれこれ考えても仕方ない。

 とりあえず…、


 寝るかw


 と、その時である。

「林さん!どうぞ!」

「失礼します。」


 こ、この声は…。

 間違いない。

 医者と俺を保護した女性の声だ。

 俺は、寝ているをして、全神経を耳に注いで彼女達の会話に耳を傾けた。


「林さん。検査の結果出たわよ。」

「で、どうでした?」

「問題無いわよ。病気の疑いは全てゼロ。ウイルスのキャリアの疑いもないわ。」

「よかったー。」


 どうやら、俺は病気持ちでは無いようだ。保護主も安心しているのが、手に取るようにわかる。


「強いていうなら、野良猫だったから、ノミのせいで少し皮膚が被れている程度かしら。まあ、そこは予想内だし、今はまだ体を動かせない状態だから、暫くは我慢して貰うしか無いけど、あの子に着せてる保護服は、寝ているうちに毎日取り替えてるし、予め消毒もしてあるから、徐々に良くなるでしょ。」


 このピッチピチの体を締め付けてる感覚は、保護服のせいだったのか…。どうりで窮屈なはずだ。


「そうですか…。」

「しっかし、本当に驚いたわー。どこまで丈夫なのかしら。野良であそこまで健康体な子は稀よ?」

「そうなんですか?」

「ええ。普通、野良の子って、目ヤニがひどかったり、栄養不足で体重が足りなかったり、何らかのウイルスのキャリアだったりするんだけど、どれだけ検査しても異常がないのよねー。検査結果を見て、思わず目を疑ったわ。」


 悪かったな!健康優良児で!


「で、そちらの方はどう?準備は進んでる?」

「はい。一応本を読みあさったり、ネットで検索かけたりして、調べてはいるんですが…。」

「ま、初めてならそんなもんよwこれが、仔猫だった日にゃあ、あんた、もっと大変よ?あの子はもう成猫だから、その辺は手もかからないだろうけど、問題はしつけね。野良の子を躾けるのは大変よ?大丈夫?」

「覚悟は出来てます。」

「そう。まあでもまだ退院まで3週間位あるから、そう肩肘かたひじ張らずに、ね?」

「はい。それはそうと、あの子にはまだ会えないんですか?」


 核心キターーーーーーーーー!


「会いたい気持ちは解るけど、まだダメね。」

「…。」

「まだ体の痛みも取れてないだろうし、右目の傷もね。それに、いま下手にあの子を興奮させたら、折角のイケネコも台無しになるじゃない?だから、もう少し我慢して。ね。」


 イケネコってなんだよ?お前の趣味だろ!


「分かりました。」

「それはそうと、名前はもう決めた?」

「一応、クロとか、あずきとか考えたんですけど、どれもいまいちピンと来なくてて…。」


 ベタ過ぎるだろ?そのネーミングセンス…。


「まあ、それもおいおいね。兎に角、あの子は大丈夫。順調に回復してるから安心して。」

「はい。」

「じゃあ、また一週間後にでも来てくれればいいわ。何も無いとは思うけど、何かあったらすぐ連絡するから。」

「よろしくお願いします。」


 ふう。どうやら、帰ったみたいだ。

 しかし、俺を保護した人間って、どんな奴なんだろうか?

 まあ、いいか。

 そのうちご対面だw

 それまでは、せいぜいノンビリさせてもらうかw


 そうして俺は、寝る事にした。


 【つづく】


 


 

 

 

 

 




 





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