第6話 馴染んでますが、何か?

さて、俺は晴れて林美優という女性の飼い猫になった。

つまり、これからは、この女性が俺の「ご主人様」である。

ご主人の自宅はマンションである。

部屋は二部屋。どうやら一人暮らしだが、一人暮らしには少し広い間取りだ。

しかし、今まで勝手気ままに野良の生活をしていた俺には、「飼い猫」の流儀は分からない。

「ほら、マサムネ。今日からここが貴方のお家よ。」

彼女は俺を床にそっと下ろした。

暫く病院暮らしだったから、体は鈍っている。

俺はここぞとばかり、走り出そうとした。


が・・・・。


床がツルツルで思うように走れない。

止まろうと思っても、滑って、上手く止まれない。

俺はひっくり返った。

それを見て、ご主人様は爆笑する。

「マサムネ。この床はフローリングよ。滑りやすいから、気をつけてw」

これが、フローリング・・・・。

最初は木の床と思っていたが、どうやら木の上に、何かを塗ってあるようだ。

「マサムネ。こっちにおいで。」

ご主人は、俺を隣の部屋に連れて行った。


そこには・・・・。


なにやら縄をぐるぐる巻きにした柱が2、3本立っていて、柱の上には穴の開いた四角い箱が乗っている。そして、柱と柱は、細長い板のようなもので渡れるように出来てあった。

他にも、俺一人が十分入れる位の箱や、おり、もある。

「いい?この箱はトイレよ。おしっこやうんこはこの中でするのよ?」

俺は恐る恐るその箱に入ってみた。

すると、中には砂が敷き詰められ、野良の時のように、用を足したあと、砂をかけるようになっている。

中々快適だ。

ついでに、俺は用を足し、後ろ足で砂をかけ、箱から出た。

「こっちはマサムネの小部屋よ。私が仕事に行っている間は、この中で、大人しくしてるのよ?」

つまり、ご主人様が外出中はこの中でじっとしてろと・・・・。

「それから、この柱や箱、橋はマサムネの遊び道具よ。自由に使って遊んで良いからね。」

ほうー。随分と準備周到だな。

取り合えうず、この柱、登ってみるか・・・・。

俺は柱を上り始めた。


おお、さっきの床と違って、登り易いw

俺はあっという間に柱のテッペンに登った。

そして、柱の上にある木箱の中に入ってみる。


おー。中々快適じゃないか。

面白い!!!

そこから見渡す景色も何か気持ちいい。

野良の時、そこらの塀を登った時を思い出す。

そして、向かいにある木箱まで、渡れるようになっているを渡ってみる・・・・。


おお!中々のスリルだ!

これも面白い!


この女・・・・、じゃなかった。もう俺のご主人か。なかなかやるな・・・・。

俺達猫の気持ち、分かってやがる・・・・。


駄菓子菓子・・・・。


俺は猫だ。

腐っても猫だ。

媚びない!ブレない!!マイペース!!!

こんな事で、簡単に人間なんぞに媚びるか!!

と、思ってたんだが・・・・。


床に降りてみると、ふかふかして気持ちいい。

そして適度な暖かさ・・・・。

まるで、野良の時の日向ぼっこを思い出す・・・・。

あー、段々眠たくなってきた・・・・。

「マサムネ?気持ちいい?」

ご主人が優しく背中を撫でてくれる感触が、また気持ちいい。


あー!いかんいかんいかん!

俺としたことが、すっかり馴染んでしまっているではないか!

と、その時だ。

俺は腹が減っている事に気づいた。


駄菓子菓子・・・・。

このご主人様に俺の気持ちがわかるだろうか・・・・?

俺は試しに、座っているご主人の顔を見上げながら、太もも辺りを前足でフミフミしてやった。

「あ!忘れてた!もう晩ご飯ね。マサムネ。ちょっと待っててね。」

ご主人はそういうと、立ち上がっての方へ消えて行った。


さて、一体どんな飯を食わせてくれるんだろうか?

マグロか?それとも魚の刺身か?

ワクワクするぜw


しばらくすると、見慣れないモノを盛った器をご主人が運んでやってきた。

「お腹すいたでしょ?病院じゃあ、ずっと点滴だったもんね。さあ、沢山食べて良 いよ」

俺の目の前には、が器に山盛りになっていた。


なんだこりゃ?

とりあえず匂いを嗅いでみる・・・・。

匂いは・・・・、魚?肉?

とにかく一口食べてみた・・・・。


硬ッツ!!!!

なんだ?このカリカリした食感は!

でも、味は間違いなく魚や肉の味がする。

今まで味わった事の無い食感だ。


「どう?これ、カリカリって言うのよ?美味しい?」

カリカリ?まんまじゃねーか!!!!

でも、このカリカリした食感以外は中々美味いw

お腹がすいていたせいもあって、俺は黙々と食べ続けた。

ご主人は俺が食事をしているのを満足げに見てると思いきや・・・・。

表情がどことなく不安そうだ。

英典ひでのり伯父さん、何ていうかな・・・・?」


その時、俺はまだ、ご主人が抱えている不安を知らなかった。


【つづく】

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