第7話  再会しましたが、何か?

さて、俺がご主人様の家へ来た翌日。

朝からご主人様は、何か身支度をしている。

俺はというと・・・・。


檻のおりのなかに閉じ込められている。

しかもこの檻、やたらと狭い!

中で身動きが取れない位狭い!

俺をどうするつもりだ!!!!!!

俺は『中から出せ!』と猛アピールした。

「マサムネ。ごめんね。窮屈だけど、ちょっと辛抱してて!」

ご主人様はそう言いながら、なにやら準備をしている。

どこかに出かけるのだろうか・・・・?

「お待たせ。マサムネ。出かけるよ。」

ご主人様はそういうと、檻ごと俺を抱え上げた。


む?俺をどこへ連れて行くきだ?まさか、保健所じゃないだろうな?!


どうやら檻には人間の手で持つところがあって、かばんのようになっているようだ。

そして、俺はご主人様の自転車の前カゴに檻ごと乗せられた。

「さあ、出発よ!」

ご主人が自転車を漕ぎ始める。

自転車はみるみる加速していく。

入ってくる風は少し冷たいが、心地良い。


そして、10分位経ったろうか。


どうやら、目的地に着いたらしく、ご主人様は自転車を一旦止めた。

「さあ。着いたわよ。マサムネ。もう少しの辛抱だからね。」

ふと檻から外を見ると・・・・。


どうやら、どこかの家についたようだ。

しかも、大きな門がある。

ご主人様の家より明らかにデカい!

これは、もう家というより屋敷だ。

そういや昔、トラ兄ィが言ってたっけ・・・・?

人間でも、裕福な人間は、大きな家に住んでいる奴が居るって・・・・。


そんな事を考えているうちに、うちのご主人は門を開け、その屋敷みたいな家に、自転車を押して入って行く。


ひょっとして、ご主人様の知り合いの家か?

そんな事を考えているうちに、ご主人様は自転車を止め、玄関を開けた。

「こんにちわー!」

ご主人様が大声で挨拶すると、奥から『はーい』と女性の声がした。

暫くすると、奥から一人の女性がやってきた。ご主人様より、かなり年上だ。

「あらー、美優ちゃん!いらっしゃい。」

礼子れいこ伯母さん。ご無沙汰してます。」

「今日はどうしたの?」

「ちょっと相談があって・・・・。英典ひでのり伯父さん、居ます?」

「ええ。奥でトラジャとノンビリしてるわよ。ささ、上がって。」

「お邪魔します。」

ご主人様は、一旦俺の入っている檻を床に置くと、靴を脱ぎ始めた。

すると、ご主人様がと呼んでいた女性が、檻の柵越しに俺の顔をじーっと見てきた。

「あら、美優ちゃん。可愛いお連れさんね。この子どうしたの?」

「あ、ああ、それは・・・・、後で伯父さんと伯母さんにお話します。」

「とにかく、こんな狭苦しい所じゃ、可哀想でしょ?出してあげたら?」

「良いですか?」

「ええ。」

「じゃあ・・・・。」

そう言うと、ご主人様は、檻の柵を開けた。

「マサムネ。出て良いんだって。出ておいで。」

どうやら、檻から出て良いみたいだ。俺は恐る恐る檻を出た。

すると、いきなりご主人が『伯母』と呼んでいた女性が、俺を優しく抱き上げた。

どうやら、俺達の扱いに慣れて居るみたいだ。猫好きな人間のいい匂いだ。

そして、何やら懐かしい匂いがする・・・・。


この匂い・・・・。どこかでいつも嗅いでいた匂いだ・・・・。


「立派な黒猫ねー。・・・・、あら?片目、怪我してるの?」

「はい。車に轢かれた時に・・・・。」

「それでマサムネ?」

「伊達政宗からとったんです。」

「そうー。マサムネちゃんねぇー。良い名前じゃないの。中々のイケニャンだ  

 し。」

「ありがとうございます。」

「さ、奥に行きましょう。英典さんが待ってるわ。」

俺はこの女性に抱かれたまま、ご主人様と共に、奥の部屋に通された。


すると・・・・。


奥の部屋には、細身の男がソファーに座って、隣で丸くなっている茶トラの猫を撫でていた。

「よう!美優ちゃん。いらっしゃい。」

「英典伯父さん!ご無沙汰してます。」

俺はその時、目を疑った。

あの独特の模様、毛艶の良さ、そして、立派な風格。

間違いない。

トラ兄ィだ。

向こうも俺の気配に気づいたのか、ゆっくりと俺の顔をみた。

やっぱり、トラ兄ィだ。

俺は、抱かれている手を振り払って、トラ兄ィに駆け寄った。

「と、トラ兄ィ・・・・。」

「ん・・・・?お、お前・・・・、クロ助か?」

「トラ兄ィー!!!!」

「おおー!クロ助!!」

俺達は久しぶりの再会に喜びを爆発させた。


当然、人間から見れば、じゃれあっているようにしか見えないが・・・・。


「おい、美優ちゃん。この子は?」

「あ、伯父さん。それはー・・・・。」


ご主人様達の心配をよそに、俺達は話を続けた。

「随分立派になったなー!あのチビのクロ助が!」

「トラ兄ィこそ、変わらないっスね!」

「おい!その目はどうしたんだ?」

「あー、ちょっと色々あって・・・・。」

「どっかの奴らにやられたのか?それとも人間に苛められたのか?」

「兄ィ、ちょっと落ち着いてw巡を追って話するからw」


一方、ご主人達はというと・・・・。

「美優ちゃん。話があるんだな?この黒猫のことで。」

「はい。英典伯父さん。今日はお願いがあって来ました。」


トラ兄ィとの再会を喜びつつ、俺はご主人達のただならぬ雰囲気に、少し胸騒ぎがしていた。


【つづく】


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