第9話リードとネコバンバンですが、何か?

トラ兄ィのご主人様が支度をしている間、俺はトラ兄ィと大人しく待っていよう・・・・、と思ったら・・・・?

「トラジャー!相変わらずだねぇー。」

そういって、うちのご主人様がトラ兄ィをもみくちゃにしている。

最初は嬉しがっていたトラ兄ィも、段々鬱陶しくなってきたのか、俺に助けを求める。

「おい!クロ助!おめぇんとこのご主人、何とかしろ!」

「あー、ダメダメ。こうなると、うちのご主人止まらないっスから。」


そう、俺は知っている。

俺も、病院から連れて帰られた日の夜、同じ目に遭った。

やれ可愛いだ、何か帽子みたいなものを被せされたり、何かみたいなもので、俺を追いかけてみたり・・・・。

このというのは、人間どもがいうには『スマートフォン』というものらしい。

もでき、も撮れる摩訶不思議な箱だ。

俺を追い回してたのは、その写真を撮るためだったのは、後で知った。

今から考えると、じっとしろだの、止まれだの、やいのやいの言われたのは、写真が撮りたかったんだという事がわかった。

が、俺には何が嬉しいのか、さっぱりわからん。

でも、俺の写真を撮っては嬉々として喜んでる姿を見ると、まあ、良いかと思っていた。


そうすると、身支度を整えたトラ兄ィのご主人様がやってきた。

「美優ちゃん、じゃあ、行こうか。」

「はい!」

トラ兄ィは、ご主人様がやってきた事で、やっと開放されると思っただろうが、そうは行かない。

「伯父さん!トラジャとマサムネも連れて行っていい?」

「はー?おいおい、美優ちゃん・・・・。」

「トラジャもマサムネと一緒に行きたいよねー?」


こうなったら、誰も止める事は出来ない。

トラ兄ィは『何とかしろよ!』という顔で俺を見るが、俺は力なく首を横に振った。

「はぁー。美優ちゃんの猫好きにはかなわねぇな。確か、リードが二つあったから、玄関で付けよう。二匹とも連れてきな。」

そう言われると、うちのご主人様は、俺とトラ兄ィを両脇に抱え上げた。

「うォい!ちょと待て!不安定だろが!」

「トラ兄ィ、我慢してくれ。うちのご主人様は元々無茶苦茶っスから。」

「マジかよォー。」

俺達は観念するしかなかった。

そして、玄関まで連れて行かれると、今後は、何やら俺達は首輪を付けられた。

「トラ兄ィ、なんスか?これ?」

「ああ、これはリードって言ってな。俺達が逃げないように、この首輪を付けて、ご主人様達は俺達を操るのさ。」

「へー。」

「よく飼い犬達が首輪付けられて、鎖で繋がれてるだろ?アレの俺達用だ。」

「あー、なるほど。」

「よく、シノノメの婆さんが元気だった頃、これを付けて、ご主人と散歩に行ったもんだ。」

「じゃあ、俺の付けてるのって・・・・。」

「シノノメの婆さんが使ってたやつだ。」

俺は何か複雑な気分になった。

トラ兄ィのご主人様は、ニコニコしながら付けてくれたが、トラ兄ィは先住猫はつい最近虹の橋を渡ったって言ってたし・・・・。

「お?中々似合ってるじゃねぇか。マサムネにピッタリだ。」

「伯父さん、このリードって・・・・?」

「ああ。亡くなったシノノメが付けてたやつだよ。これ、美優ちゃんにやるから、マサムネに使ってあげな。」

「いいの?そんな大事なもの貰って?」

「構わねぇさ。シノノメだって喜んでるはずだ。それに・・・・。」

「・・・・?」

後生大事ごしょうだいじに持って、いつまでもメソメソしてたら、シノノメだって安心して虹の橋を渡れねぇだろ?」

「伯父さん・・・・。」

「それよりよォ。新しく仲間になったマサムネに使ってくれた方が、な。」

「ありがとう!伯父さん!」

俺は正直安心した。

そして分かった。

この人も俺のご主人に負けず劣らずの猫好きだと言うことを。

「さあ、酒を買いに行くか。」

「うん。」

俺達は、ご主人様達と玄関を出た。

外の日差しと風が心地いい。

けど、寒い!!!!!!!!!!!

と、その時・・・・。

突然トラ兄ィは、庭に停めてあった車に走って行こうとした。

ま、まさか車で行くのか・・・・?

俺は、以来、車は苦手だ。

できれば御免被りたい。

「ちょ、ちょっとトラジャ!車で行かないよ?どうしたの?」

俺のご主人様が慌てるのをよそに、トラ兄ィは車に走り出す。

「あー。いつもの奴な。」

「伯父さん?」

トラ兄ィは車の前でチョコンと座る。

すると、トラ兄ィのご主人は、車のボンネットをバンバンと叩いた。

するとどうだろう・・・・。

車の下から、野良猫が二匹、飛び出して行った。

「やっぱり居たかぁ。」

「伯父さん、今の、何?」

「ああ、『ネコバンバン』って言ってな。冬になると、外は寒いだろ?この時期、寒さを凌ぐ為に、野良猫が車の下や、エンジンルームに入り込んでる時があるんだよ。だから定期的に、ああやって野良猫を逃がしてやるんだよ。」

「へー。」

「うっかり車を走らせて、野良猫を引き殺したかぁねぇしなー。」

「まさか、トラジャも分かってて?」

「ああ。猫なりに分かってンだろうなぁー。」

すると、俺のご主人様は、トラ兄ィに駆け寄って・・・・。

「トラジャ偉いねー。」

後は想像どうりだ。

トラ兄ィーは、またもみくちゃにされたのだった。


【つづく】







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