第5話 とある魔族の一日

俺の名前はティブリス、種族は虎人族。俗に言やぁ、ワータイガーって奴だ。魔族の中では上級中位と言ったところか。

 魔王城には、約100人の魔族が詰めている。その中での序列では22位。そこまで高くはねぇが、実力的には結構なモノなんだぜ?

 10位以内ならにゃおう様の側近の中に入れるんだが・・・・・・もう少し実力が足らねぇ。もっともっと強くならねぇとな。


 魔王城での俺の役目は、脚の速さと膨大なスタミナを生かした連絡要員。俗にいう伝令というやつだ。

 魔法があるなら伝令用の魔法があるじゃないかって? まぁ、こと魔王城の中じゃぁ、それが出来ねぇんだよな。何故かって? そこにはにゃおう様の能力が関係している。皆は可愛らしく『にゃおう様』とか言ってるが、その吸魔の能力は、マジに半端ねぇ。

 周囲の魔力を吸収し、その身の内に溜めこみ変換し、自らの力とする破格の能力だ。この能力があるおかげで、猫魔なんて脆弱な愛玩系魔族が魔王なんて存在まで上り詰めやがった。つまりは、周囲に強力な魔族がいればいるほど、にゃおう様の能力は高まるって訳よ。

 あの側近のやつらぁ、終日にゃおう様を見守る生活をしてやがるが、にゃおう様に魔力の提供をしてるって事でもあるんだわな。まったく、楽をしやがって、うらやましけしからん。俺もいつかは側近連中と肩を並べ、にゃおう様を見守るんだ・・・・・・。

 え? 魔族の中でも上位に位置する虎人族の俺が、猫魔の魔王様に嫉妬してるんじゃないのかって? いや、俺たち魔族は生まれがすべて。生まれついての能力にケチをつけるやつなんていねぇよ。運も実力のうちだからな。それを言っちまったら、虎人族に生まれついた俺は、他の弱小種族に恨まれちまってるって事だしな。生まれの不幸を呪うやつぁ、もうそれは魔族じゃねぇ。人族の転生者とかじゃねぇのか? 転生なんてものが存在するかは知らねぇけどよ。

 それに、今の魔王様に喧嘩を売ろうって考えるやつぁ、魔王城の中には居ないと思うぜ。

 まぁ、アレだ・・・・・・なんつ~か、『可愛い』んだよな。しぐさや色んなあれこれが。

 俺もよう、一応はオスだ。オスがオスに興味を持つってのはおかしいとは思うけどよ。これが理屈じゃねぇんだよな。まぁ、誰の言葉かは忘れちまったが『可愛いは正義!』っつ~言葉があってよ。まぁ、俺もにゃおう様を見るまではバカなことを言ってやがるぜ・・・・・・と、思ったものだが、俺の中の価値観を綺麗サッパリひっくり返されちまったわな。


 まぁ、そんな訳で、俺も魔王城の一員として今日も働いてるって訳よ。

 んで、この世界にゃ魔王様と対をなす『勇者』なる敵が居やがってよ。これがまた、追い返しても、叩きのめしても、殲滅してもどこからともなく現れやがるんだよな。

 まっ、そいつらのおかげで、俺も魔王城での仕事にありつけてるんだけどな。


 んで、勇者の襲撃は、そう頻繁ではないにしても、そこそこありふれた日常なんだよな。

 その日もそんな日常の風景だった。





 『ガランガランガラン』


 俺の控室に備え付けられた鐘がけたたましく鳴りやがった。勇者の襲撃を教える鐘の音だな。これがまた耳ざわりなんだわな。俺、虎人族で耳が良いし。

 勇者の襲撃をにゃおう様に伝えるのは伝令たる俺の役目。だが、誤報の可能性もあるんで俺の目で確認しなけりゃならねぇ。

 控室から飛び出て城門の見張り台に登ってみりゃぁ、5人の人族がこっちに向かってくるじゃねぇか。

 全身金属鎧の大盾持ち、両手に長剣をぶら下げた剣士系、長剣と小盾の剣士系、ローブを着込んだ魔法使い系、僧衣を着こんだ僧侶系の5人だ。

 魔王城周辺の雑魚警備兵どもがバッタバッタとなぎ倒されてやがる。

 まっ、魔王城周辺の雑魚兵は、勇者どもを確実に魔王城へと誘い込むための誘導要員なんだよな。下手に反抗して被害を広げるよりかは自分で叩きのめすってぇ、にゃおう様の方針だからだ。俺もにゃおう様が負けるなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇから、問題なく誘い込めるんだがな。

 雑魚兵どもをなぎ倒し、良い気分にさせたところでにゃおう様が粉砕して希望を打ち砕く。まったく、あの方は恐ろしいぜ。

 

 敵も確認したことだし、俺は素早く城内へ駆け込む。通いなれた通路を疾風のごとく進み、途中に居た魔族の上を飛んでかわし、石畳に爪をひっかけ急転回を行う。魔力を使わない移動速度では、俺は魔王様に次ぐ2位、それゆえの伝令の役目。

 伝令たる俺が執務室に近寄れば、側近どもは道を開ける。そのような取り決めがあるからなのだが、この時ばかりは、伝令の身分でありながら側近たちを押しのけることができ、すげ~気分が良い。


「にゃおう様! 敵襲です! 勇者どもがしょうこりもなく現れました!」


 かなりの距離を疾走したが、この程度じゃ俺の息は乱れねぇ。一息で言い切った。

 あ、やべ、つい勢い余って魔王様に直接『にゃおう様』って言っちまった・・・・・・。


 にゃおう様は軽くため息をついた後、分身体をその身に吸収し、執務室を後にした。


 おほぅ・・・・・・やはり、りりしかっこかわいい。しっかし、俺はノーマルのはずなんだがなぁ。何なんだろうなぁ? この感覚。これが魔王のカリスマ性ってぇ奴なのか?

 

 にゃおう様が出て行ったガラス張りの執務室を見ると、イネス様がにゃおう様の後姿をじっと見つめていた。

 ついて行きたいのは俺も判る。だが、対勇者戦は魔王の責務。ほかの魔族が介入することをにゃおう様はことのほか嫌われる。なので黙って見送るしかないんだよな、これがまた。


 イネス様は軽くため息をつくと他の側近たちをまとめ、山のような書類を片付け始めた。

 この人たち、元々が凄まじく仕事のできる連中なんだよな。普段は遊んでるように見えるんだけど。っつ~か、見えるというより、にゃおう様をオモチャにして遊んでるよな。確実に。


 俺がこの場にいても仕方ない。書類整理を手伝わされても嫌だしな。

 俺の職務は伝令任務! 書類仕事はお呼びじゃないんだよなぁ。


 俺が控室へ戻る間も、城を揺るがす振動と爆音が頻繁に聞こえてくる。


 

 しばらくして、魔王城を殴りつけたような振動と轟音が聞こえてきた。

 あ~これはあれだ、にゃおう様が使うのが大好きな巨人の腕の召還魔法を発動させちまったかな?

 清掃業務のやつらが嘆くぞ、こりゃぁ。にゃおう様は使うの大好きみたいだけど、あれ、片付けが大変なんだよなぁ。色んなモノが床にこびりつくし。

 ま、俺の仕事じゃないし、どうでも良いんだけどな。

 

 さ、俺の業務はそろそろ終了。相棒に任務の引継ぎを伝えに行くとしますかね。

 んな感じで、俺の平常の一日は終了する。

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