第4話 魔王という者

 魔法を極めし吾輩は詠唱など必要とせぬ。まずは、先ほどから耳障りな声をあげてるあやつからだな。


「食らうがいい! ダークネスフレアッ!」


 吾輩の言葉と共に、回復職であろうオスに漆黒の炎がまとわりつく。後衛だろうが関係ない。吾輩は完璧な魔力操作により、好きな場所で魔法の発動ができるのだ。

 

「ガブリエールッ!」


 オスのくせにメスのような声を出していた僧衣を着たオスは声を上げる間もなく燃え尽きた。


「くっ! ガブリエルがやられたぞっ!」

「クソッ! 魔法防御が効かねぇぞ! なんだあのけた外れの魔力は!?」

「キヒヒヒッ! 刻めば関係ねぇぜっ! ヒャッハーッ!」

「まてっ! フランシスコッ!」


 先ほどからキヒキヒ言っていた剣士が切りかかってくるが、大丈夫だ問題ない。吾輩が歴代最強の魔王というのは伊達ではないのだよっ! 伊達でわっ!


「フンッ!」 

「ギャヒッ!」 


 吾輩は躍りかかってくる剣士の懐に、するりと滑りように潜りこむと右の掌底を当て、動きの止まったところに左足で回し蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 奇声を発しながら剣士は吹き飛び、玉座の間の扉を弾き飛ばし、そのまま姿が見えなくなった。 


「フハハハハッ! 吾輩がいつ接近戦が苦手だと言ったのかね?」


「クソッ! つえぇ~っ!」

「・・・・・・見た目に騙されるな! あれは魔王なのだ!」

「魔法なら私も負けてない! 食らえっ! シャイニングフォースッ!」



 ふむ。光系中級上位魔法か。この程度なら避けるまでもないのである。


「・・・・・・やったか!?」


 ふむ、少しまぶしいが、この程度ならば我が魔法防御は貫けんよ。吾輩にダメージを与えるならば、少なくとも上級中位くらいの魔法を放てねばな。


「フハハハハッ! その程度かね?」


 吾輩の防御は貫けないとはいえ、魔法をそうポンポン放たれては玉座の間が壊れる。外れた扉を直す位ならば問題ないが、調度品が壊れた場合の修繕費もバカにならないのだ。

 吾輩は瞬動魔法にて、魔法使いっぽい男の背後に人間の目には捉えられぬ速度で回り込み、頭に手を置くとそのまま真下に叩きつける。魔法使いの身体は圧縮され肉塊へとなり果てる。


「グッ! エウジェーニオッ!」

「・・・・・・化け物めっ!」


 何をいまさら、吾輩は魔族の頂点に立つ魔王なのだ。


「この程度の実力で吾輩に立ち向かうとはな。魔王も甘く見られたものだ」


 次はもう一人の剣士だな。足掻くことすら許さんよ。


「食らうがいい! タイタンフィストッ!」


 吾輩の力ある言葉により剣士の頭上の空間が裂け、巨大な巨人の拳が降り落とされる。

 剣士は避ける間もなく床の染みと化す。


「グッ! ・・・・・・うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 大盾もちは剣士の最後に一瞬ちゅうちょするも、大盾を構えて突進してきた。


「フハハハハッ! 勇者たるもの、そうではなくてはな!」










 ふむ。終わったな。こたびの勇者はあまり強くはなかったのである。魔王軍の損害は、重傷者は複数居るものの、死者はゼロ。何も問題はない。

 吾輩はテクテクと執務室へと戻り、公務を再開・・・・・・しようと思ったが、かなり残っていた数多の決裁書類がない。


「あ、魔王様、仕事は終わらせておきましたよ」


 そう言いながら執務机を布で拭いているイネスの姿があった。

 優秀な部下を持つと、仕事がはかどるのである。


「おぉ、イネス。ご苦労なのである」


 イネスはメイドでありながら魔王軍のNo.2。吾輩に何かあればイネスが指揮を執ることになる。そのため、魔王である吾輩と同程度の決済権限を有している。


「御指示通りに勇者の一人を、死なない程度に痛めつけ逃がしておきました」


 魔王の強さを思い知らせるためにも広報官は必要だからな。それを勇者の一人に任せてるというだけの事。何も問題はない。あの手のバトルジャンキーならば正確な報告も出来まい。魔王とは実体の良く判らない蜃気楼のごとき存在。それが様式美というものであろう。 


「それで・・・・・・そのぉ・・・・・・」


 何か言いたげな顔で見つめてくるイネス。うむうむ、吾輩は判っているのである。

 吾輩は机にひょいっと飛び乗ると、イネスの頭をナデナデしてやる。


「イネス、これからもよろしく頼むのである」

「ハイッ! 魔王様!」


 吾輩に頭を撫でられたイネスは、見る者の心を温かくさせる笑顔で微笑んでいた。

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