第3話 魔王と勇者

吾輩の名は、コロ・アルファス・イレヌルタ・ウェパール・エウェパズズ・オルゼブエル・フェネクス。偉大なる魔王である。

 魔王である吾輩は、今日も公務に勤しんでいたのである。であるが・・・・・・。


「にゃおう様! 敵襲です! 勇者どもがしょうこりもなく現れました!」


 はぁ、また勇者どもか。あいつらが来ると、公務が滞るので好きになれないのだが。

 まぁ、致し方ない。吾輩は魔王。魔王と勇者は戦うもの。そう神代の時代より定められておる致し方なき事実なのだ。

 吾輩は分身体をその身に戻し、深紅のマントを翻し、執務室を後にする。

 迎え撃つ場は玉座の間。これも神代の時代より定められた様式美というやつなのだ。魔王と勇者が通路でばったりと出会い、その場で開戦とか・・・・・・格好がつかぬではないか?

 それゆえに、魔王領より集められた数々の逸品が飾られている玉座の間で迎え撃つのは、我が魔王軍の精強さ思い知らしめるためにも必要な事なのだ。


 勇者を迎え撃つために玉座の間へ向かうのだが、その間にある階段の段差が妙に高い。理由は判る。吾輩は魔王史上初の猫魔の魔王であり、魔王城はそれまでの魔王の体格に合わせて造られているからだ。

 段差は高いが、大丈夫だ問題ない。吾輩の身体能力をもってすれば、3段飛ばしくらい余裕であるからな。

 ・・・・・・ふぅ、ようやく階段を下り終えたのである。階段の必要のない謁見室付近に執務室を造れば良いではないかという吾輩の提案は、腹心たるイリスめに諫められてしまったのだ。『魔王たるモノがそのような事でどうします? 執務室と謁見室を近くにすると、偉大なる魔王様の働く姿を卑しい勇者どもに見せてしまいます。魔王様は偉大なるお方、そのような姿をお見せできません』などといって却下されてしまったのだ。

 イネスの言い分も判る。だが、吾輩は魔王なのだ。公務を部下に任せて遊び呆ける訳にはいかぬのだ。魔王としての公務は絶対に外せぬ。ならば吾輩が折れるしかないというものだ。


 時折、魔王城をも揺らす振動と爆音が聞こえてくる。此度の勇者どもは中々のツワモノ揃いのようだ。だがしかし、上には上がいると教えてやらねばなるまいて。


 吾輩は余裕をもって玉座の間に到着し、腰を掛ける前に身だしなみを整える魔法を我が身にかけ、吾輩の身体には大きすぎる玉座に腰を掛ける。

 フフフ、完璧な毛並み、今日の吾輩も実に美しい・・・・・・。


 待つことしばし、勇者どもが玉座の間の荘厳なる扉を押しのけて入ってきた。


「魔王は何処だ!」

「みんな油断しないで!」

「上方警戒! そして柱の陰からの不意打ちを警戒しろ! 対魔法防御展開開始! 」

「ヒャッハー! 俺様に任せろ!」

「・・・・・・いくぞっ!」


 ふむ、此度の勇者どものなんと騒がしいことよ・・・・・・。

 勇者どもの構成は、前衛3、後衛2のバランスタイプ、中央の大盾持ちが後衛を守りつつ、左右から前衛が突出するスタイルか。積極性には欠けるが悪くはないのである。

 ふんっ、相手が吾輩でなければ魔王討伐も叶ったかも知れぬがな。吾輩も魔王領を背負ってここに立つ身、負けてやるつもりは欠片もないのだよっ! 


「クッソッ! 魔王は何処に隠れてやがる!」

「回復魔法の準備はいつでもOKよ!」

「転移魔法からの奇襲を警戒!」

「キヒヒヒッ! 刻んでやんよっ!」

「・・・・・・落ち着け! 今代の魔王は魔法系魔王らしい。油断大敵だぞ」


 こやつら、何を言ってるのだ? 吾輩は最初からここに居るではないか。


「気配は感じるのに肝心の魔王の姿が見えねぇっ!」

「姿かくしの魔法ね!? みんな油断しちゃだめだよっ!」

「奇襲に備え対物結界の強化を開始!」

「キィッヒャッハーッ! 俺様の強さに怖気づきやがったかっ!」

「・・・・・・いやまて、正面を見ろ!」


 フフフ、ようやく気づきおったか。此度の勇者どもは格が低いようだな。


「ん? ネコのぬいぐるみ? 長靴を履いた猫的な?」

「結構可愛いかも? ってか、お持ち帰りしたいかな?」

「こんな場所にか?」

「キヒッ! キヒッ! 刻むっ、刻むっ、刻みつくしてやんよぉっ!」

「・・・・・・うぬ? いや、まさかあれはっ!?」

 

 ほほぅ、一人なかなかの眼力持ちがいるようだな。あいつが勇者どもの司令塔か。ならば、手厚く歓迎してやらねばなるまいな。


「フハハハハハッ! 良く来たな勇者ども!」


 吾輩の恐ろしさ、その骨身に刻みつくして灰にしてやろう!


「吾輩は、第28代目魔王、コロ・アルファス・イレヌルタ・ウェパール・エウェパズズ・オルゼブエル・フェネクスである!」


 フフフ、決まったな。


「ちょっ! マジかっ!? なんであの見た目で声が渋いんだ!? っつ~か、名前がなげぇっ!!」

「何あの可愛いの! え? 魔王? あれが?」

「え? ナニ? ドッキリ?」 

「・・・・・・キヒッ?」

「油断するな! あれを見た目だけの存在とは思うな!」


 ふんっ! 昨今の勇者は様式美も理解せぬか。こちらが名乗ったのだから名乗りを返すのが礼儀であろうに。まぁ良い、礼儀知らずにはそれなりの礼儀でもって返さねばな。


「フハハハハハッ! 食らうが良い勇者ども!」

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