第9話 魔族と人族

 私の名前はイネス。魔王城でにゃおう様付きのメイドをしています。魔王軍での序列は2位。

 ついこの間までは、圧倒的な大差で2位を確保していたのですが、最近はこの座もかなり危ういのです。

 そして、ここ最近の魔王城では、ある変化が起きています。

 魔王城と言えば魔族の聖地。魔王領から選び抜かれたツワモノが集いし対人族用の最前線。

 ですが、魔王城には・・・・・・嘆かわしいことに、その宿敵である人族が増えつつあります。


 最初はにゃおう様の気まぐれだったのでしょう。偉大なるにゃおう様に、一度は敗れ片腕を失った人族が再戦を望み、単独で挑むという暴挙に、私たち魔族は嘲笑ったものです。

 ですが、なぜかその人族をにゃおう様は気に入られ、魔王軍へと編入なされました。

 それまでの魔王軍は、人族とは討伐するべき対象であり、受け入れることなど到底かなわない事でした。

 しかし、私たち魔王軍はにゃおう様のしもべ。にゃおう様がなされることに異を唱えることはできません。仕方ないので受け入れたのですが、その人族は、にゃおう様のお世話係を決める、魔王軍格付け闘技会に参戦してきたのです。

 片腕を義手にした剣士など・・・・・・と、私たちも最初の内は意に介していませんでした。しかしその者は、下馬評をことごとく覆し、私との決勝の場まで生き残ったのです。

 私とて長らく君臨したNo.2.そうそう負けるつもりはありません。ですが、私の飽和魔法攻撃も、魅了のスキルもその者には通じず、あと少しで押し切られるところでした。私が勝てたのは偶然と言えるほどの僅差。それは、今までNo.2を守り抜いてきたという自負と、わずかな戦闘経験の差。基本的な実力では負けていました。

 もう愕然としましたよ。蔑んでいた人族が、私たち魔族よりも強いだなんて。

 その者は勇者のパーティにいたと言う事ですが、基本的に勇者パーティは誘い込んで撃滅するのが魔王軍の基本方針。迎撃部隊も手を抜いて死なぬように戦うのが常でした。そして、魔王城に侵入してきた勇者たちをにゃおう様が容易に撃滅。

 つまりは、私たち魔族もにゃおう様の強さを見誤っていたと言う事です。その結果が闘技会での惨敗に近い成績。

 恐怖で震えましたよ。勇者の手下ともいえる人族が、私たち魔族の精鋭よりも強いという事実。勇者と事を構えた場合、私ですらも容易にやられてしまうという予測が簡単に立てられます。



 そしてその人族は、魔王城での特権を得たのです。

 最初はにゃおう様の寝首を掻くために寝返ったふりをしていると、私たち側近一同が目を光らせていました。ですが、その人族は何もしないのです。そればかりか、私たちが見守り、だれ一人直接手出ししないと言う協定を結んでいたというのに、その人族はにゃおう様に取り入り始めたのです。


 魔王城の料理長が作るよりも美味しい料理、魔王城の仕立て屋よりも精巧な衣服、私たちメイド隊よりも完璧な清掃技術・・・・・・あの人族は何をしに来たのでしょうか? 私たちに絶望を与えるためでしょうか?


 あまつさえあの人族は、私のことを『オバハン』呼ばわりするのです。私の実力が勝っていれば粛清もやむ無しなのですが、基本能力は私の方が下。魔王軍の規則では『強者が正義』認めざるを得ません。『オバハン』と呼ばれるたびに、歯を食いしばり耐えました。耐え抜いたのです。


 そして、次の人族は、憎き勇者でした。

 先の人族と同じように単騎でにゃおう様に挑むという暴挙。勇者たちは数の暴力でにゃおう様に対峙するのが常。ですがその勇者は単騎で挑んできたのです。私たちはその時点で嫌な予感がしました。


 後でにゃおう様に聞いたところによれば、名乗りを上げたにゃおう様に同じく名乗り返し、この世界の不条理を説いたそうです。その後しばらく話し合いをなされ、にゃおう様はその勇者を魔族側に寝返らせました。

 

 そしてその勇者は、今では私たちの聖地ともいえる執務室で、にゃおう様のお手伝いしていやがります。

 それまでは私の仕事だったのです。それを奪われた形です。その勇者の強さ自体はそうでもありません。ですが、書類の処理能力ではにゃおう様以上だったのです。権能の関係上、決裁能力までは与えられてませんが、勇者が来てからというモノ、にゃおう様の仕事の効率は4割増しに跳ね上がりました。

 にゃおう様の公務として、最近はおやつの時間とお昼寝の時間が追加されました。

 おやつは片腕剣士がつくり、お昼寝の時間は勇者が作り出すという感じです。

 おやつを頬張り、お昼寝の時間で私たちに癒しを与えてくれるにゃおう様。私たちにも利益が出てる以上、強くは出れないのです。

 さらに最近は、勇者を慕い魔王軍へ編入される人族が増えています。

 このままでは、魔王城の戦力は、魔族と人族の混成部隊になりそうです。

 にゃおう様が即位なされた時期には到底考えられないこの事態に、魔王領は揺れています。


 そして、にゃおう様による、魔族と人族の融和政策も始まっています。


 一体、魔王軍はこのまま、どのような道に進むのか心配でなりません。

 

 あぁ、魔族の神様・・・・・・どうか私たちをお導きくださいませ。

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