第10話 新たなる世界を望みし者

 吾輩の名は、コロ・アルファス・イレヌルタ・ウェパール・エウェパズズ・オルゼブエル・フェネクス。偉大なる魔王である。


 最近は、公務も早く終わるので、ここしばらく出来なかった魔王領の巡察を行うことができるようになったのである。

 それもこれも、人族の有能な執行部員が魔王城の仕事を片付けてくれるからである。

 これも最近気づいたのだが、どうやら魔族は書類整理が苦手なようである。吾輩も含め・・・・・・だ。

 勇者が魔王軍に寝返ってからというもの、書類整理の効率が格段に向上し、その勇者の部下たちが寝返ることにより効率がさらに加速し、吾輩の仕事は魔王領の方針に関することのみで、後はその執行部が賄うほどまでになったのである。

 聞けば、人族は書類社会とのこと、書類で世の中が回っているそうである。

 吾輩がやらねばならないと思っていた公務も、任せられるものは任せてしまえば良いのだな。


「あ~! にゃおうさまだ~」

「にゃおうさま。きょうもいいてんきですねっ」

「にゃおうさま~、あのね、あのね、きのうね・・・・・・」


 うむうむ、可愛いのである。

 吾輩の周りにいるのは子供たちだ。吾輩は猫魔であるがゆえに、背丈は子供らの方が大きいのだが・・・・・・吾輩は偉大なる魔王。そのような些細なことは、き、気にならないのである!

 

 吾輩の奨める魔族と人族の融和政策により、人族において虐げられている下層民を、魔王領で受け入れる政策も実を結びつつあるのだ。

 今、吾輩の周囲にいる子供たちも、魔族と人族が混ざりあっている。子供たちには、姿かたちは気にならないのであるな。実に良いことなのである。

 大人たちは最初は警戒しあっていたが、今は魔族と人族との婚姻も増えていると聞くのだ。実に喜ばしいことなのである!

 最初は危険視されていた融和政策は実を結びつつあり、吾輩の考えは間違っていなかったことが証明されたのだ。


「ほぉ~ら、子供たち。魔王様からのプレゼントだぞ~」


 子供たちに飴を配っているのは、片腕の剣士フランシスコである。


「あ、フランシスコのおじいちゃん!」

「いつもありがとうごじゃいます!」

「あめちゃん、あめちゃん、あめちゃんだぁ~~~!」

「ははは、喧嘩をしたりしてはだめだぞ~。ほら、仲良く順番にな」


 思えば、このフランシスコを受け入れたことが、今の状況を作ったといっても過言ではないのだな。

 吾輩が魔王に就任した時には、魔族と人族がお互いにいがみ合ってた時代であったのだ。

 このような時代が来ることが、どうして想像できようか?


「魔王様、そろそろお時間です。ほら、キコも行きますよ」


 吾輩が最も信頼している、メイド長のイネス。こいつも変われば変わったものである。

 最初はあんなに仲の悪かったフランシスコと婚姻し、子供まで作ってしまったのだからな。

 人族の寿命は短いため、老人となってしまったフランシスコと、いまだに若いイネスとでは、祖父と孫の様に見えてしまうのがアレではあるのだが。


「ははは、イネスも子供たちと触れ合いたいんでしょ? 遠慮なんかしなくていいのにねぇ。ねぇ、魔王様」

「ちょっ! キコッ! な、何を言ってるのでしょう!」

「はははは、可愛い可愛い」

「や、やめなさいっ!」


 年老いたフランシスコが、顔を真っ赤にしたイネスの頭を撫でているのは、何とも微笑ましいものである。


「あ~おふたりさんはいつもなかよしですねっ!」

「い~な~。あたちもそんなおあいてがほしぃ~ですっ!」

「あめちゃんおいしぃ~!」


 子供たちにからかわれ、足早に立ち去っていくイネスを見て、変われば変わるものだと思ってしまうのだ。


 吾輩の掲げた魔族と人族の融和政策。着々と実を結びつつあるようで、実に良いことなのである。

 魔王領では、魔族と人族が仲良く手を取り合い生活しておるのだが、魔族と人族は、いまだに敵対しあっているのである。魔王領での融和政策は、人族へまでは浸透しておらぬのだ。

 そのため、魔王城は魔大陸の入り口を封じているのである。吾輩が退位するまでに、そのようなことをしなくとも良い時代が来ることを願うのである。


 

 吾輩は猫魔の魔王、コロ・アルファス・イレヌルタ・ウェパール・エウェパズズ・オルゼブエル・フェネクス!


 魔族と人族とが永遠に手を取り合い、共に歩むことを心から望む者である!

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