第6話 心折れし者
僕の名前はフランシスコ。職業は人族の双剣士。ついこの間まで勇者パーティの遊撃手を務めていたんだよ。
異世界の勇者ガブリエルを筆頭に、大盾を使うタンク役のアウレリオ、小剣と小盾を使う魔法剣士のエメルソン、人族の中でも屈指の魔力の持ち主の魔導士のエウジェーニオ、そして双剣を操る僕の5人の勇者パーティ。
でも、そのパーティは、僕を残して全滅しちゃった・・・・・・。
自慢じゃないけど、僕たちは強かったね。人族間の戦争を未然に食い止め、ダンジョンも5つは制覇したし、もう破竹の勢いで活躍していたんだよね。
でも、あの魔王にはかなわなかった・・・・・・。何? あの強さ、反則でしょう。
異世界の勇者ガブリエルの回復魔法には何度も助けられた。千切れた腕をつなぎ、斬られて中身のはみ出たお腹の傷を傷跡もなく癒し、病魔に侵された身体をも癒す・・・・・・正に異世界の勇者の名にふさわしい実力の持ち主だったね。 ま、まぁ、男のくせに女の格好をしてたのは、さすがの僕もドン引きだったけどさ。あいつは自分のことを 『女装家』だか『おとこの娘』とかいってたけど、異世界の文化は本当に良く判らないや。
大盾使いのアウレリオ、キマイラの爪すら弾き、ヒドラのブレスを封殺し、圧倒的な物量の差を、その剛腕から繰り出されるシールドバッシュでパーティの危機を何度も救ったっけ・・・・・・。
魔法剣士のエメルソンは、パーティでのムードメーカー的な存在で、あいつの言動には何度も助けられたよなぁ。少し口が悪いのが難点だったけど。魔法と剣のバランスが秀逸で、完璧な中衛役をしていたっけ・・・・・・。
魔導士のエウジェーニオ、コイツとは少しソリが合わなかったけど、あいつの魔法には何度もパーティのピンチを救われたっけな。
はぁ、あの楽しかった日々も、もう戻らないんだな・・・・・・。
ウッ! っく!
あぁ、失った左腕の傷口がうずくなぁ。そう、僕はあの時の戦いで左腕を失ったんだ。双剣士が双剣を使えなくなったら、ただの剣士だよね。
「ダンナァ、あまり飲みすぎると身体に触りやすぜ」
あぁ、酒場のマスターか。ここは冒険者ギルドに併設されてる酒場だ。冒険者割引がきいて、安くて旨いと評判の酒場だ。マスターは不愛想で評判だけどね。
もう、放っておいてくれないかな? 僕の双剣士としての立場はもう失われたんだ。それに呑まないと傷口がうずくんだよ・・・・・・・。
僕は蒸留酒の入ったジョッキをあおり、喉の奥が焼けつくような液体を臓腑にしまい込む。
クソッ! ちっとも酔えやしない。あの時のことを思い出すだけで歯の根が合わずにガチガチと音を立ててしまう。
その時、酒場の扉が勢いよく開けられ、薄汚い冒険者がゾロゾロと酒場の中に入ってきた。
「ぎゃはははっ! 今回は楽勝だったな!」
「おうよ! おれたちゃサイキョーだからな!」
「げははははっ! 俺たちなら魔王討伐もラクショーなんじゃねぇの?」
「魔王なんざ、片手でひねってやんよっ!」
くそっ! ただでさえマズい酒がさらにマズくなる。僕たちが勝てなかったのに、お前らザコどもが勝てるわけないだろうに。
「お? そこにおわしますは、勇者パーティのフランシスコちゃんじゃねぇ~の?」
「あひゃひゃひゃ。魔王城におててを忘れてきたんでちゅか~?」
「ふん、一人だけ逃げ帰ってきた雑魚がっ!」
「てめぇは冒険者の面汚しだぜ。相打ちにしてでも魔族を倒すのが俺たち冒険者だろうが!」
チッ! 何もわからないザコどもが!
「聞いた話じゃ、魔王はケットシーだったってぇ?」
「魔王があんな弱小魔族なわけないだろうがよ」
「ケットシーなら俺の実家でも飼ってたぜぇ。あいつら一日中寝てるだけのペットだろうがよ」
「はんっ! おおかた、ほかの魔族と見間違えたんだろうがな。何せ一人だけ逃げ帰ってくるような腰抜け野郎だ」
「あぁ、そうにちがいねぇ」
「「「ぎゃははははっ!」」」
こんなクチだけのザコ達と関わっても無意味だからな。僕は何も言い返すことなく蒸留酒を口へ運ぶ。
「おらっ! なんか言い返してみろよ!」
「悔しくねぇのか! おめぇはよ!」
「勇者パーティだか何だか知らねぇが、しょせんはその程度のザコ野郎だったってことだろうよ」
「お前ら勇者パーティってだけでずいぶんと良い目を見てきたんだろ? バチが当たったんだよ」
「ま、お前らが負けたおかげで、俺たちが次の魔王討伐隊になりそうだがな」
「異世界召喚なんて役に立たないモノより、この世界の厄介ごとはこの世界の人間が片付けるべきだからな」
「オカマの勇者と根暗なタンク、性格最悪の魔法剣士にクチだけ魔導士、んで、腰抜けの双剣士じゃ、勝てるものも勝てないわな」
「まったくだぜ」
「「「ぎゃははははっ!」」」
僕が、僕が悪く言われるのは問題ない。でも、他のパーティメンバーを悪く言われるのだけは許さない!
僕は懐に常備している『反射能力向上薬』俗にいう『魔薬アクセラレータ』をクチに放りこみ噛み砕く。
「ダンナァ、その手ブツは控えた方が良いですぜ」
チッ! この騒ぎでも我関せずとグラスを磨いてるマスターには言われたくないね!
キッ! キヒッ! キヒヒヒッ! キタッ! キタッ! キイテキタァァァッ!
「キヒヒヒ」
「あぁん?」
「ついに頭がやられちまったか?」
「フランシスコちゃぁん、どうちまちたかぁ? おもらしでもちまちたか~?」
「はんっ! てめぇみたいなザコに笑われると虫酸がはしる」
「アンタら、ギルドの中は抜刀禁止だぜ。ヤるなら素手でヤれよ」
「マスターか、わかってんよ、それくらいはよぉ!」
金属鎧の男が椅子を蹴り飛ばそうと足を振り上げるが、遅ぇ! 俺様ちゃんは素早く立ち上がり、足を振り上げた男の顔面をひっつかみ、すぐ後ろにいた男の顔面に叩きつける。
その場ですぐにしゃがみ込み、身体が重なった男二人分の足を蹴り上げ転倒させる。そのまま勢いを殺さず右手を床につき反動を付けて身体を起こす。やつらの位置は声を発していた位置から確認済みだ。直接見なくともわかる。大きく一歩下がりその場にいた男のアバラを粉砕するかのように右肘を叩き込み、その場でくるりと回り、目の前にいた男の後頭部を右手でつかみ、その顎に膝を打ち上げるかのように蹴り上げる。
俺様ちゃんが打ち倒した連中の取り巻きは反応すらできていない。この程度の腕前のザコどもが、良くも大口を叩いてくれたもんだぜ!
キヒヒヒッ! 今から始まるのは蹂躙だっ! 反応すらできずにこの場に沈めっ!
「ダンナァ、行くのかぃ?」
俺様ちゃんは十数人いたザコどもを叩きのめし、酒場の扉の方に向かっているとマスターが声をかけてきた。
この騒ぎの中でも我関せずとグラスを磨いてる酒場のマスターはかなりの大物に違いねぇ。あれか? 冒険者ギルドのマスターが酒場のマスターをしてるてぇ噂、あれ、マジもんじゃねぇの?
ま、俺様ちゃんには関係のねぇ話だ。
そして、判っちゃいたが俺様ちゃんは強ぇ。
魔王とヤりあったときはあの姿で油断したから負けたんだ。次に会うときはゼッテー負けねぇ!
確か大陸の東の果ての工房街に、義手や義足に武器を仕込む変わった武器工房があったよな。
双剣士の俺様ちゃんが片手っつ~のはどうにもバランスが悪ぃ。大昔に噂を聞いたときにゃぁバカなことをしてると思ったもんだが、もしかしたら使えるかもしれねぇ。行くだけ行ってみっか。
「キヒヒヒッ! シハライハソイツラニィツケトイトクンナァッ!」
『魔薬アクセラレータ』は使える薬なんだが、性格が変わるのが難点だよな。あと、なんか上手くしゃべれなくなるしよぉ。
「ダンナァ、無理はしなさんなよ」
ハンッ! 無理のしねぇ冒険者はタダの人だ。 俺様ちゃんは右手をプラプラ挙げてマスターにこたえる。
さて、目的の街はここから30日くらいだったっけか?
キヒヒヒヒッ! 腐れ魔王が、首を洗って待っていやがれ! てめぇをうち滅ぼすのは俺様ちゃんの役目だぜ!
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