にゃあの見るもの

緑茶

にゃあの見るもの

 うちで飼っている毛の長い猫は、しょっちゅう窓辺に座って外を見ている。

 それも、私がそのもふりとした毛に触れ、顔を埋めるほどに近づけて、太陽の匂いとあたたかさを存分に吸収している時に限って、である。


 私が相変わらずもふもふしても、こいつは知らぬ存ぜぬを貫いて窓の外を見ている。尻尾はいい具合に規則正しく揺れていて、そこに緊張は見られない。拒絶されているわけではないらしい。


 ――そんなに外を見続けていて、一体何が見えているというのだろう?


 私は問うてみたが、猫語なんて分かるわけもなし。言葉で会話ができるならきっと人間と猫の関係性は変わってしまっていることだろう。というわけで、無反応だけがある。

 なんだかじれったくなって、私は猫の腹に思い切り顔を埋めてみた。さんざん私のことを無視して、外にばかり気を取られているのだから、これぐらい受け入れるがいい、はっはっは。

 私はふわふわで暖かい毛の中に分け入って、その先の暗がりを見ようとした。鼻腔中にねこのにおいがひろがる。それはそれでいいものだったが……。

 その先に、見えてくるものがあった。そう、猫の毛に埋もれた暗黒の先に、である。

 私は気になって、さらに顔を押し付けた。猫が不思議と全く抵抗しないのをいいことに。


 すると。


 私の眼下に広がっていたのは、暗闇ではなかった。


 それは一つのパノラマで、よく目を凝らすと、どこかの街の上空であることがわかった。

 小さな建物があって、ノミのような物体は蠢く車だった。間違いない――自分は猫の毛の先に、街を見出した。比喩ではない。自分は空の上から神様のようにその情景を見下ろしていた。私はさらに観察を続ける。

 街が、より詳細に見えてくる。やがて、私は、広がる光景に既視感を覚えた。


 ……遅れて気付く。これは、私の住んでいる、今まさに居る場所の風景だ。


 で、あれば。

 はやる気持ちを抑えて、私はよく目を細める。


 ――私は、私の家を見つけた。

 そこで、猫がどうして空を見ていたのかを理解したのである。


 猫の中の小さな小さな猫と、目があった。

 


 猫はずっと、空の上から覗く私を見ていたのだった。

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