Secret broadcasting――
「やぁ、よく来たね。UBC――海風放送委員会へ」
桜の花弁が、風に乱れ舞う季節。
横浜海風高校も顔触れが変わり、暖かい陽気の下。
「UBC部長の、
放送室の広くはないスタジオに、彼らは集まっている。
「――因みに、この先輩は、前部長の
「私たちは、たぶん6月で引退するけれど、それまでよろしくね!」
神楽は、1年前と同じように(今日は紫紺のスカーフだったが)、ポニーテールを揺らした。
「河神、今日はやけに短い挨拶だな」
「私みたいな老いぼれが、長口上を述べたらねぇ? 伊月、嫌でしょ?」
「まぁ、透が部長になったわけだしな」
「ちょっと! 老いぼれってところは否定してよね!」
先輩方が2人で話しはじめた横で、透は困ったように笑う。
「放送委員になってくれて、嬉しいよ。俺たちは、行事の運営だとか、映画を撮るだとか」
彼はあたたかく笑み、一拍置いてから言葉を継いだ。
「アナウンスや朗読で、人に思いを伝える活動をしています」
そして、彼は突然声をひそめて、
「ところでね、神楽先輩を“河神”って呼べるのは、伊月先輩だけなんだ」
と教えた。
新入生たちは、きょとん、とする。
「あの雰囲気からは想像できないかもしれないけれど。――伊月先輩はね、朗読で告白したんだよ。……大胆だろ?」
彼らの中から、どよめきが生まれた。
「――――透。余計なことを言っただろう?」
伊月の視線が、透に刺さった。痛かった、とても。
「でも、伊月先輩が神楽先輩を好いているのは、事実でしょう?」
不自然な間が空いた。
「…………まぁね」
伊月は、色素の薄い髪を緩慢な動作で掻き上げ、にこりとした。目の保養を通り越した微笑は、最早、目の毒である。
気の毒な新入生たちは、ただ絶句するしかなかった。
「ばか」
神楽は僅かに頬を紅に染めて、スタジオから逃亡してしまった。
「――先輩、逃げちゃってるじゃないですか。どうするんです?」
透は少しの非難を込めて問うた。
「どうもしないよ。ミキサールームにいることはわかってるからね」
2人の関係は、相変わらず――のようであって、一歩だけ進展していたらしい。しかし、神楽のこととなると、雰囲気も口調もがらりと変わってしまう伊月の
「もう桜が舞う季節なんだね……」
伊月は窓の外を眺めながら、壁に背を預けている。
そして――――。
あの木枯らしの吹き
その句を、舌の上で転がす。
あの桜も、明日、美しくなったのかな。
――――葉桜になって。
明日の葉桜 月緒 桜樹 @Luna-cauda-0318
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