終幕・最上の微笑

 結果発表なんて、無くてもよかった。


 そう思ったのは、とうにも伊月の伝えたかったことが――すなわち、彼のが――伝わってしまったからで。


 透自身には、全国に行ける水準レベルに達していない自覚があった。だから、決勝進出者に保証された“奨励賞”で、十分だった。



 アナウンスから結果は発表されたので、神楽は一足先に、5位・優秀賞をもらっていた。因みに、5位になると関東大会への切符がついてくる。



 つまり、神楽は勝ち進んだのだ。


「全国行けなくて悔しいけれど、皆で決勝に残れたのは良かったよ。関東行かせてもらえるんだから、ありがたく思わなきゃね!」


 神楽は、にやりとした。妙に似合う笑顔を見て、透は少し笑う。すると彼女は笑いながら、怒った。器用な人である。


「失礼ね?! 人の顔を見て笑うなんて!」

「落ち着け、河神。朗読俺らの結果が聴こえない」


 神楽は今度は伊月を小突く。小声で、「神楽って呼んでくれてもいいじゃん!」と食って掛かったことを、透は知る由も無い。





 結果は、6位から発表された。伊月が目指す全国に進むには、3位以内に入る必要がある。


「伝わったのだから、全国に行けなくても十分なんだがな」


 伊月は呟く。

 審査員は、芝居掛かった作品を好まないのである。伊月は“力みすぎた”と振り返ったが、それが審査員にどう解釈されるかは、彼にはわからない。


「もっと欲張りになりなよ、伊月は」


 神楽が苦笑した。「修行僧じゃん」と笑った。






 5位、4位、3位、2位――――と、伊月の名前は呼ばれない。

「朗読部門、最優秀賞は――――」









 ――そして、全てが終わった最後に。









 ――伊月は、と最上の微笑を浮かべてみせた。

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