第2話 クソッタレな王族貴族

 宗介が王宮にたどり着き、少女が門番の兵士に要件を告げると、兵士の案内とともに謁見の間へと案内された。

「おお! よくぞ来て下さった!」

 恰幅の良い、金糸銀糸で刺繍が施された衣装と王冠の壮年の男性が宗介を出迎えた。

「勇者様をお連れしました~」

 少女の言葉に、謁見の間に集った文官武官から歓声が上がる。

 あれが勇者か やはり若いな だがいかにも理知的な顔つき……勝手な評価が宗介の耳に入る。

 勝手に言っていろ非人間どもめ……宗介はそう考えながらも愛想よく王に応えて名乗りを上げた。

「して、勇者殿、我等はどのようにすればよろしいのだろうか?」

 歓待の言葉もそこそこに、国王は要件を切り出した。

「この国に大砲はないのですか? それから付近に林や森はありませんか?」

 国王は両方あると答える。

「ならば大砲は半分を高台に集めて、そこから砲撃してください。それから、森林の樹木を伐採して投石機を作り、それも高台からの攻撃に加えてください。砲戦では射程距離の長いほうが勝つ。そして高台から射撃するのは射程距離を上げる単純な手段です。残りの大砲は、砲弾の代わりになるものを飛ばしますので最前線に待機。釘や鉄くずをありったけ集めて最前線に持って行ってください」

 宗介の言葉に、周囲の者たちは驚き頷く。

「理解できましたか? ではすぐに準備に取り掛かってください。それから、元の世界に戻れると聞いたので一度僕を元の世界に返してください。色々と道具を持ってきます」

「了解した! さっそく準備に取り掛かれ!」

 国王の号令で兵士たちが準備にとりかかる。

「で、勇者殿、何をお持ちになるので?」

「それは後でお話しします」

 話してると長くなりそうだったので、宗介はごまかして元の世界に戻してくださいと頼む。

「わかり申した。おい、名前はもらったか?」

 国王は、少女にそう話しかけた。

「はい~。アルビノという名前を頂戴しました~」

 少女は嬉しそうに言った。

「アルビノか……不思議な響きの名前だのう。アルビノ、勇者殿を元の世界へお戻しせよ」

「かしこまりました~。さあ、勇者様、参りましょ~」

 アルビノと名付けられた少女は宗介の手を取ると、元きた道を戻り始めた。

「アルビノってのは、人の名前じゃないんだけどな……」

「そうは言われましても~、もうそれで定着してしまいましたので~」

 宗介のつぶやきに、アルビノは明るく答える。

「まあ、いいか……」

 宗介は諦めたようにつぶやく。宗介は諦めが早いことで有名だった。

 別の言い方もすれば割り切りが早いとも言える。

 何かをする時、コストとリスクをメリットと比較して、前者が大きい場合には行動を起こさない。あるいは何かをすることをやめる。反対に、メリットが大きいと判断した場合にはかなり強引な手段も取る。それが宗介の性質だった。

 通路を歩きながら宗介は考えた。この、アルビノを薬品やら魔法やらで記憶を消去して人形にしたという卑劣漢どもををどのように懲らしめるかと言うことを。

 彼らの行いは宗介の信仰に反するし、人間としても許せない。何よりも許せないのは、アルビノが己のそうした境遇をなんとも思わずに底抜けに明るくさらっと話してしまえることだ。

 宗介がアルビノの頼みを引き受けたのも、一つには宗教的な問題、もうひとつには道徳的な問題もあるが、一番は宗介の感情の問題だった。

 こんな非人道的なことを女の子にする奴らが、アルビノの頼みを宗介が断り、アルビノの役割を果たせなくなった時、連中はどんな非道なことをアルビノにするのか、考えただけでも胸クソ悪くなるし寝覚めが悪くなることも必須だった。

 寝覚めが悪くなるから。究極的に言ってしまえば、宗介がアルビノの頼みを引き受けたのは、それだけが理由だった。

 そして、教会にたどり着くと、宗介はアルビノから銀色のバッチをもらった。

「これは?」

 宗介の質問にアルビノは他世界通信機だと答える。これを持っていると世界を超えて通信ができるらしい。使い方はボタンを押して話しかけるだけ。なんともインスタントでご都合主義的なのだろうか?

 だが、宗介はそんな思いを表には出さずに、ただありがとうといった。

「では、勇者様、転送しますですよ~」

「了解」

 不思議な響の言葉の羅列とともに、宗介の全身に眠気が襲ってくる。そして意識が途絶えてめを覚ました時、宗介はロケットの実験をしていた広場に立っていた。

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