第5話 本格的殲滅


 宗介はグラフィスには悪いがアルビノに頼んで一度元の世界に替える。

 何をするかと言えばこの時間まだ開いている学生食堂への殴り込みだ。カレーの食券を買って列に並びおばちゃんに提出。

 数十秒後には味噌汁とサラダ付きのカレーが宗介に手渡される。

 これだ。これなのだ。

 中世異世界をベースとしたファンタジー世界はとにかく飯がまずい。農業改革なんてものは下手すれば数十年単位で根気をもってやらなければならないわけで、ぽっと出の勇者に食糧事情をどうこうできるわけがなかった。だから、宗介は三度の飯だけは地球で食べるようにしている。オートミールに味付けしないで食ったほうが美味しんじゃねえの?(宗介主観)な感じで異世界の食事はまずいので、これは緊急避難であると言い聞かせていた。

「ゆうしゃさま~、グラフィス様が及びです~」

 どうやら楽しい食事時間もすぐに過ぎたようだ。アルビノに呼び出されてクラースヌイへ戻る。

「騎馬大体、(座標をつけた方面)へ斥候を出してくれ。敵が来ていないか、敵が罠を仕掛けていないか。敵が来ているとしていればどこまでかだ」

 主力とは別に貴族や商人の次男坊までで編成した軍隊を偵察に出す。このような任務なら安全性は高いだろうと貴族共を説得したからだ。

 そして、待ちに待った報告がやってくる。

「敵、現地点まで徒歩で約二日。罠などを警戒している余裕はございません」

「了解。谷に全力で罠を仕掛けつつ一度出兵しましょう。一戦して善戦したふりをしつつも退却して谷にこもります。敵の数の差には勝てないように演出するわけですね」

 それが今回の宗介の考えた作戦内容だった。

 平原でひと当たりしてわざと負けて退却しつつ、谷にこもって少数戦力で当たる様子を見せる。

 更に谷でも辛勝をしつつ撤退し、真ん中で罠にかけるのだ。

 敵は思うようにこちらの動きに乗ってきて、わざと敗れる先鋒を蹴散らして谷に入ってくる。

 谷の先鋒にはそこそこ強い部隊を置いているが、退却が前提なのである程度敗戦させてから撤退させる。

「よし、かかった」

 敵の列が伸びて前後の連絡ができなくなると、谷の上から煮えたぎった油を落とす。単純でいて実に残酷な戦法で、この油を浴びた兵士は二度と通常生活では使い物にならなくなる。これが作戦その一、敵に傷病兵を多く作ること。これによって敵の国力は大幅に減少する。如何な大国であっても傷病兵を抱えたままではまともに戦争などできない。

 さらに敵が侵入してきたら直轄軍工兵による岩石の崩落を食らわせる。

「いまだ、砲兵に伝達! 撃て!!!」

 そして、砲兵による弾丸の雨を降らせる。

「修正、特に認めず。このまま効力射を行われたし」

 練度をあげた砲兵に特に修正の必要はない。そのまま敵陣に叩き込んでひき肉を量産させる。

「魔法兵、叩き込め! 敵はもはや動かぬ的だ!!」

 数が少なく育成が難しい上に扱いが難しい魔法兵だが、ここまで徹底的に追い込んでいれば魔法による法撃にも意味がある。

「弓兵! マスケット兵! 出番だ!!!」

 弓兵には曲射をさせつつ、マスケット兵は斜め上から撃ちまくる。この時、宗介は最大の戦果を発揮していた。だからこれ以上の戦果を欲張らず各部隊を下がらせる。場合によっては戦場を離れさせる。

 当然敵の圧力も増してくるが弓兵、マスケット兵、砲兵の連携で簡単には突破させない。ように見せかけて徐々に圧力を弱めてゆく。

 そしてブラウの軍隊は回廊の出口へ到着した。

 そこに待っていたのはぶどう弾を装填して砲口を水平に構えた砲兵の群れだ。

 フラウの兵士たちはひき肉へと早変わりする。

 そこから宗介はブラウに地味に出血を強いて負けを認めさせ、賠償金と捕虜の身代金、そして領土の幾つかをせしめることに成功したのだった。

 特に,今回戦闘が行われた回廊はその両端をクラースヌイのものであるとして認めさせ、クラースヌイがよほどのヘマをしでかさない限り平和は半恒久的に保たれるようにしたのであった。

 そしてここから、宗介によるアルビノのための個人的な復讐が始まる。


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