君たちは彼を異世界に転生させた後、どう生きるか。
- ★★★ Excellent!!!
異世界に転生するという物語は、我々が考えている以上に重い意を含んでいるのかもしれません。
いわゆるテンプレートや様式とは、先駆者が無人だったそこを走り抜けることでできた轍(わだち)なのだと思います。その轍の道は今や大混雑しており、その道のかたわらには無数の“終わらない物語”たちが、つまるところ”エタった”物語たちが転がっている。
その物語の一つ一つには、キャラという名の「人間」がいる。名前があり人格がある。連載中は人格とは関わりなく「キャラ」としての挙動が求められ、彼らはそれを演じ切る。しかし彼らのその苦労も、物語が終わらなければ報われることはない。永遠にステータスオープン回だったりギルドでのトラブル回だったり、水着回や俺TUEEE回のままだったりする。エンドレスエイトから抜け出せないキョンみたいな境地だろうか……。
本作にも温泉回という、コミカライズやアニメ化を見越した上では“お約束”のお色気ハーレムシーンがありますが、脱衣所の向こうの男女混浴風呂には誰がいるのか、是非とも物語を一から追っていただいて読んでほしいです。
本作は、創作者の「異世界もの」への向き合い方に疑義を表しつつも、決して露悪的にならず笑いも交えながら読める作品です。異世界に転生する条件が「大型トラックに轢かれること」って、物語とは無関係にテンプレとして“面白すぎちゃってる”んですよね。私も本作を読みながら何度か笑っちゃいました。
異世界転生に限らず、創作者は読者のためにどこまでキャラを使役・消費してよいのかという問い直しでもあります。私も創作者として、読後はそのことを考えるよい機会となりました。そういう意味では、これは創作論の一つともいえるかもしれません。
それでは長文失礼いたしました。