第3話 トラックの精霊
「ゆかりんめ、我の名前の発音が日本語ではそんな印象を与えるなどとは一言も言っていなかったぞ」
などと仏頂面でつぶやくエルフの姫騎士イーナ。
四苦八苦しながら、何とかエロイーナとかエロりんって呼び方だとエロを連想させるってことを説明して、愛称は「イーナ」と呼ぶことで納得してもらったぜ。
その話が一段落したところで、俺はさっき聞いた一番重要なことについてイーナに尋ねることにした。
「ところでイーナ、さっき言ってた『異世界転移の魔法』ってのは、簡単に使えるのか? それとも大規模な儀式とかが必要なのか?」
「ああ、色々条件をつけて異世界から強引に召喚するとなると大規模な魔法陣や儀式が必要になるのだが、こちらから人を連れて行くだけなら簡単だぞ。そなたを日本に返してやるくらいなら、すぐできる」
それを聞いて俺は安堵した。何のかんの言っても、観光とかでちょっと滞在するんならともかく、言葉もわからない異世界で生活するとかになったら大変だろうからな。
「そうか、それじゃあすまないが、俺と
「いや、それはさほど魔力を使わずとも可能だ。可能だが……これだけ壊れた状態のトラックを転移させたら日本では大問題になるのではないか? 我もそれほど日本について詳しいわけではないが、ゆかりんから聞きかじった程度の知識からでも、そのくらいのことは推測がつくぞ」
「あ……」
うっかりしてたが、確かにその通りだ。これじゃあ、誰がどう見ても自損事故を起こしたようにしか見えない。
それどころか、もっとマズい状態にあることに気づいて、俺は思わず叫んでいた。
「ってえ、それどころじゃねえだろ、俺!
荷物の賠償の心配はなさそうだが、
畜生、またローン組んで修理代捻出しないといけねえのかよ……延滞とか一度もしないでローン完済したから、もう一回借りるのは何とかなりそうだがな。それにしたって、修理が完了するまで、どうやって暮らしていきゃいいんだ?
思わず途方に暮れていた俺に、救いの手をさしのべてくれたのはイーナだった。
「まあ待て、少し時間はかかるが、そなたのトラックを直すことなら何とかなるかもしれんぞ」
「本当か!? どうやって……あ、魔法か!」
「魔法ではなく精霊術だな。そなたのトラックには精霊が宿っているゆえ」
「なにぃ、精霊!?」
『三菱キャンター』じゃ無理だろとかネタ的に思ってたけど、本当に宿ってたのかよ!?
「うむ、そなたがトラックに名前をつけて愛着をもって大事に使っていたので精霊が宿ったのであろうよ。この世界に転移したのも、事故を避けようとした精霊が力量以上の力を咄嗟に発現させた可能性が高いな」
「……なるほど
「その例えは適切だな。それと、我も日本に行って驚いたのだが、日本では実にさまざまなモノに精霊が宿っていたな。便所にまで精霊が宿っていたのには呆れたぞ。この世界では地水火風といった自然現象に精霊が宿るのは珍しくないし、優れた武具や伝統ある建物に精霊が宿ることもあるのだが、あそこまで多種多様な人工物に宿りはせぬのでな」
「え、便所? ……そうか、
「ゆかりんも同じことを言っておったな。信仰の対象だと。我らの世界でも昔は精霊信仰があったからわかるぞ。ただ、日本には精霊が多い割には
「はー、なるほどねえ……ところで、精霊術で
「ああ、
「おお、そいつはありがたい!」
「ただ、あくまで自己修復能力なのでな……これだけひどく壊れてしまったのだ。精霊が生きているので、このトラックも死んではいないが、修復にも時間がかかるぞ。そうだな、ざっと一年はかかるだろう」
「一年もかよ!」
その間、一体どうすりゃいいんだ!? ……いや、どっかの運送会社にまた雇ってもらえば食いつなぐことはできるか。今は人手不足だしな。勤め人が嫌で独立したのに、また雇われドライバーに戻ることは気にくわねえが、背に腹はかえられねえ。一年我慢すりゃあ、また
そんな風に考えていた俺に、イーナが話しかけてきた。
「このトラックは、そなたの仕事道具なのであろう? このトラックに宿っている精霊からいろいろと話を聞いたぞ。このトラックがなければ日々の仕事にも困ると」
「ああ、それでどうしようか考えていたところだ」
「うむ、それなのだがな……我はそなたに命を救ってもらった。また、そなたが倒したドラゴンは、我がエルフトリア王国にとっても重大な脅威だったのだ。それを倒してくれたそなたには、二重の意味で恩義がある。だから、本来なら金銀財宝などの恩賞を与えることもできるのだが……」
「おお、金がもらえるのか?」
一瞬希望がわいたのだが、次のイーナの言葉であっさりしぼんでしまう。
「我が国の通貨は日本では使えまい。以前にゆかりんに魔法を教えてもらったことの謝礼を与えようとしたのだが『金貨にしたって出所不明のものは買いたたかれるし、いきなり金塊とか銀板とか宝石とか手に入れたりしたら、どこで手に入れたんだって怪しまれるよ。税金の処理も面倒だし』と断られてしまったのだ」
「なるほど、そう言われりゃそうだな」
俺は青色申告してる個人事業主なんだから、変な収入を申告して怪しまれたくないしな。ただでさえ、そういう細々したことは苦手なんだ。あぶく銭もらって誤魔化すのに苦労するよりは、真面目に働いて真っ当な収入を得るのが一番だぜ。
そんな風に納得した俺を見ていたイーナは、そこで俺に尋ねてきた。
「だからな、そなたには別の形で礼をしようと思う。そなたのトラックが自己修復する間に代わりに使えるトラックがないということが問題なのだから、代わりがあればよいのだろう?」
「おお、もしかして魔法とかで作れるのか!?」
思わず興奮して尋ねた俺に、イーナは首を横に振って否定しながら答える。
「いや、残念ながら、ゆかりんならともかく、我はトラックを複製するほど高度な魔法は使えないのだ……しかしだ」
そこでイーナは一度言葉を切ると、ニヤリと笑いながらとんでもない提案をしてきたんだ。
「我が秘術『
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