エルフの姫騎士をお持ち帰りしたらエロかった件
結城藍人
第1話 ドラゴンVSトラック
気付くと、見たこともない草原のまっただ中にいた。愛車ごと。
おかしい、この俺、
「まさか、異世界トリップ?」
思わず、そうつぶやいちまったのは、俺がネット小説好きだからだ。配達や配送の合間には、意外に時間待ちが多いときがある。そんな時にスマホでネット小説を読むのが俺の趣味なんだ。
同じ仕事をしている仲間内だとスマホゲームの方が人気があるが、基本は無料でも課金アイテムがないと楽しめねえようなゲームも多いんで、俺はあまり好きじゃねえ。金のかからないネット小説でも読んでいる方がマシだと思ってる。あまりアクション性のないゲームだと運転中にやるバカもいるしな。
その点、ネット小説は運転中にチラ見なんかしても楽しめないってのもいいところだ。俺は小説はじっくり読む派なんでな。
で、ネット小説だと異世界転生や異世界トリップが大流行なんで、俺もそういうのは結構読んでる。トラックドライバーとしては『トラック転生』なんて言葉があるくらいに転生やトリップの原因をトラック事故にするのはやめて欲しいところなんだけどな。
だってよお、そんなの読んだ頭の軽いバカに目の前に飛びだされて見ろよ。そのバカの人生だけじゃなくて、こっちの人生まで終わっちまうんだからな。自前の中古小型トラック一台でほそぼそと大手運送会社の下請けや孫請けやってるような独立ドライバーが死亡事故なんか起こしてみろよ。相手が悪いってことを証明できたら情状酌量もあるかもしれねえが、そうでなきゃ交通刑務所でお勤めする羽目になった上に、免許は一発取消。お勤め後に再取得したって、よっぽどの人手不足でもない限りは、もう二度と仕事なんか来ねえよ……まあ、最近はその『よっぽどの人手不足』な気もするけどな。
にしても、まさかそんな俺自身が別のトラックのせいで異世界トリップする羽目になるとは……いや、まだそうだと確定したワケじゃねえが。
そういや、異世界にトラックごとトリップしたら、トラックに精霊が憑依しちゃって無双できるようになるって小説を読んだことがあったな……俺の愛車『
遠くの方に土煙が見えたんで、何かがやってくるのがわかった。そっちを見てみると、人らしき小さな姿を、大きなモノが追いかけてた。俺は視力がいいのが自慢だからな。ドライバーとしては大きな武器だし。その自慢の視力でよーく見てみると……
ありゃあ……恐竜か!?
は虫類系の姿で二足歩行して走ってくる巨大生物なんてのは、恐竜以外に思いつかねえ……と思ってたんだが、近づいてくるのをよく見てみると、恐竜にしてはおかしいな。背中からプテラノドンみたいな羽が生えてやがる。
羽が生えてるのに何で飛ばねえんだ? と思ってよく見てみると、その羽は飛膜の部分が破れてボロボロだった。あれじゃ飛べねえだろうな。
えーと、羽の生えた二足歩行するは虫類系の姿って……ドラゴンだよなあ。ってことは、やっぱここはファンタジー世界! 異世界トリップ確定だぜ!!
……って、そんな場合じゃねえだろ、俺!
だんだん大きくなってきているけど、まだ少し遠い。今なら逃げることは可能だろうな。でも、どこへ? それに、トラックの燃料がなくなったらどうする? そもそもファンタジー世界でディーゼルエンジン用の軽油の補給なんてできんのか?
言葉も通じるかどうかわからんし、この世界で生きていくためには、まず誰かに恩を売っておくことがいいんじゃねえのか? そして、今の燃料がある状態なら、あのドラゴンみたいなヤツが相手でも何とかできる可能性がある。
どのみち、逃げ切れなかったら何もできずに殺されるだけだろう。それなら、まだ何とかできるうちにアイツを倒せば、死中に活を見いだすこともできるはずだぜ。
何より、男は度胸! そういう世界にあこがれてトラック野郎になったんだからな!!
「よおし、一丁やってやるか! 行くぜ
俺はギアをローに入れなおしてからアクセルを踏んで
本当はカウンターでぶつかるのが一番威力があるんだが、真っ正面からだと逃げてる人もはねちまうだろう。だから、俺はドラゴンが走ってくる方向から進路を微妙に右にずらした。
それと同時に、逃げてる人も
互いに逆方向に避けるよう少しずつ方向転換したので、もう正面衝突にはならない……と思っていたら、ドラゴンの方が人を放置して俺の方に向かってきた。そりゃそうか、トラックの巨体が突っ込んで来るの見たら、そっちの方が脅威に思えるだろうからな。
よおし、そんなら真っ向勝負だ! テメエが二トントラックのぶちかましに耐えられるならテメエの勝ち、そうでなけりゃ引き分けか俺の勝ちだ!!
そう思って、俺はハンドルを軽く切ってドラゴンに真っ正面から向かうコースを取る。
だが、ドラゴンは最初は真っ向からこっちに向かって走ってきていたが、あと二百メートルくらいのところで足を止め、大きく口を開いた!
くそ、ブレスか!? まだ届く距離じゃねえが、このまま近づいていってカウンターで飛び道具食らったら、こっちも無事ですむかどうか……
その瞬間、水色の光が
思わず左右を見回してしまったところ、視界の端でドラゴンから逃げていた人から、こっちに向けて水色の光の線が放たれていた。これ、もしかして魔法とかそういう系? それも、水の守護とか、そんな感じっぽい。
よおし、誰か知らないが、あんたの魔法を信じるぜ!
俺はアクセル全開のまま、ドラゴンに突進した。
あと三十メートル! ドラゴンの口から炎が吐き出されて
だが、その炎は水色の光の膜に遮られ、運転席までは入ってこない。よおし、期待通りだ!
次の瞬間、
砕け散るフロントガラス。そして、急激に膨らむエアバッグ。それが、俺が意識を失う前に見た最後の光景だった。
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