第2話 姫騎士はコスプレクイーン

 明るい、温かい、そして気持ちいい。もしかして俺は天国にでも来ちまったんだろうか……と一瞬思ったものの、次の瞬間には目を開けることができた。人の顔が見える。そこで、意識がはっきりしてきた。


 俺は確か驀進号バクシンゴーでドラゴンに体当たりしたんだよな? それで人の顔が見えるってことは、結果はただひとつ。俺は賭に勝ったんだ!


 首を横に向けてみると、フロントが大破した驀進号バクシンゴーとグチャグチャに潰れたドラゴンらしき死体が見えた。この世界のドラゴンがどんだけ強いかは知らねえが、二トントラックの時速百二十キロでのぶちかましには耐えられなかったようだな。


 そこで、改めて最初に見えた人の顔を見る……おお、パツキンに青い目の若い外人さんじゃねえか。ハリウッド女優もびっくりの美人さんだぜ……って、耳がずいぶん長い上にとんがってねえか!? もしかしてエルフ?


 と、その手が明るく光っているのに気づく。その光る手で触られた脇腹の部分が、温かくなると同時に、わずかに感じていた鈍痛が消えていく。おお、これは回復魔法ってヤツじゃねえのか!?


 ……って、俺、膝枕されてる状態じゃねえかよ!


 気恥ずかしくなって、慌てて起き上がろうとしたら、腰の部分に激痛が走った!!


「あがっ!」


 思わず変な悲鳴を上げちまったら、エルフの姉ちゃん(と推測したのは、慎ましげだが胸があるからだ)が慌てて俺の腰に手を当てながら、何かを言う。


「××××、○○!」


 その光る手が当てられると、すぐに腰の痛みがやわらぐ。すげえな、回復魔法!


 しかし、やっぱり言葉はわかんねえ。どうしたもんかなあ。でもまあ、とりあえず礼は言っておこう。


「誰かは知らねえが、ありがとうな。痛みがやわらいだぜ」


 と、俺の言葉を聞いたエルフの姉ちゃんの顔が明らかに驚いた表情になる。そして、改めて俺に向かって口を開いたんだが……


「そなた、日本人か?」


「うぇ!?」


 その口からは、はっきりと日本語が出てきたんで、俺は思わず変なリアクションをしちまった。だが、言葉が通じるのは悪いことじゃねえ。すぐに気を取り直して答える。


「おう、日本人だぜ。あんた、日本語わかるのか?」


「わかる。前にに来た日本人に習った……魔法で習得させてもらったのだ」


 その言葉は衝撃的だった。


「え、この世界に日本人が来たことあんのか!?」


「あるぞ。一人だけだがな。彼女はすごい魔法使いでな、いくつもの異世界を渡り歩いていたと話していた。われは彼女から異世界言語習得の魔法と、異世界転移の魔法を教わったのだ」


「日本人なのに魔法使い!?」


「ああ、彼女自身も『普通の日本人は魔法は使えない』と言っていたな。なんでも、彼女の親友が異世界転移した先で魔王のきさきになって、その縁で魔王から魔法を使えるようにしてもらったのだとか」


「何つーラノベ展開!」


 思わず言っちまったが、よく考えてみたらありがたいことだ。少なくとも、俺の話が通じる人がいてくれたんだから……って、もうひとつ聞き捨てならない言葉があったんだが!?


「なあ、あんたさっき『異世界転移の魔法』って言わなかったか?」


「ああ、言ったぞ。我は異世界転移の魔法が使える」


「ってことは、もしかして、俺の住んでた日本にも転移できる?」


「うむ。ほとんど使った事はないが、ゆかりん……ああ、彼女の愛称だ……に教わったので、彼女に誘われて一度日本に行ってみたこともあるぞ」


 そう言われたので、思わずツッコんじまった。


「ちょっと待て、あんたの外見で日本に来たら、大騒ぎになったんじゃねえか!?」


 何しろ、見た目外人風なのはまだしも、耳は長くてとんがってるし、服装は緑色のミニスカワンピースの上に皮鎧、ニーハイのガーダーストッキングに膝丈ブーツと脛当て、腕には篭手ガントレット、腰には細身の剣の鞘を吊り、長弓と矢筒を背負っていて、頭には銀のサークレット。どう見てもファンタジーのエルフじゃねえか。日本に来たりしたら、絶対に目立ったはずだと思ったんだが……


「いや、確か『東京ビッグサイト』とかいう凄まじく混雑した場所に転移したのだが、何でも『コミケ』とかいう催し物をやっていて、似たような服装をしている者も大勢いたので全然目立たなかったな」


「コスプレ扱いかい!」


 思わずツッコんじまったら、エルフの姉ちゃんも意味はわかってたらしく、苦笑しながら答えた。


「ああ、そういう風習だというのは、ゆかりんに教わった。そういえば、どうも我の姿が写真に撮られていたらしく、後日インターネットとやらの『会場で見たコスプレ美人コンテスト』とかいう投票で一位になったとか教えてくれたぞ。ゆかりんめ、『コスプレクイーンだね』とか言って笑っておったな」


 と、そこで何かに気づいたような顔になってから、表情を引き締めると俺に向かって頭を下げながら言った。


「そういえば、まだ礼も言っていなかったな。改めて礼を言おう。そなたのおかげで助かった。我はエルフ族で最も伝統ある『エルフトリア王国』の第三王女にして森守もりもり騎士団副長のエロイーナ・エル・グランド・エルフトリアだ。そなたがドラゴンを倒してくれなければ、潰走した騎士団を逃がすための囮となって彼奴あやつを引きつけていた我は確実に討死うちじにしていただろう。エルフトリア王家と森守もりもり騎士の名誉にかけて、必ずやそなたの恩には報いよう」


 それを聞いて俺は思わずビビっちまった。王女で騎士団副長ってことは、いわゆる姫騎士ってヤツじゃねえか!


「お、王女で騎士団副長!? そんなに偉い人だったとは……」


「いや、王女とはいっても妾腹で王位継承権は低い。いずれ臣籍降下した上で適当な高位貴族にとつがされる程度の身よ。それが嫌で騎士を志し、幸いにも武術にも魔法にも精霊術にも長けていたゆえに騎士団副長まで登ることができたが、これとても王族としての身分あってこそ。異世界人であるそなたにかしこまられるほど大層な者ではない。まして、日本には身分制度などないのだからな。無理に言葉使いを改めずともよい」


 そう苦笑しながら言ってきた。そう言ってくれると助かるぜ。俺も敬語とかは苦手だからな。


「そうか。そんじゃお言葉に甘えさせてもらうぜ」


「うむ、そうしてくれた方が我も気楽でよい。それより、そなたの名前を教えてはくれぬか?」


 そういや、まだ名乗ってなかったな。


「俺の名前は轟番太。しがないトラック運転手だ」


「よい名だ。番太と呼ばせてもらってもよいか?」


「ああ、別にいいぜ王女様。それとも姫騎士様って呼ぶ方がいいか?」


 そう答えたら、少し眉をひそめながら言ってきた。


「そう呼ばれるのは好かぬ。そなたも我のことはエロイーナと呼ぶがよい。ゆかりんのようにエロりんと呼んでくれてもよいぞ」


「いや、そいつは勘弁してくれ!」

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