第8話 エルフの姫騎士は俺の嫁

 三十六日ぶりに来たエルフトリア王城だが、前回は驀進号バクシンゴーを預けるとすぐに日本に異世界転移しちまったんで、実はそんなに見ちゃいないんだよな。


 エルフの王城だけあって、森の中心にあって、何百本、いや何千本という生きた木が組み合わさり、その枝が複雑にからみあって高層建築――ってもせいぜい五階くらいだが――を作り上げている。こんな建物は日本どころか俺の世界のどこ行ったって見られないだろうな。


 その中庭に転移したイーナだが、トラックの姿のままだ。精霊変化ってのは一度使うと一年間は使えないそうだから、元に戻ったら次にトラックに変化できるのは十一カ月後になっちまうはずだからな。


「久しぶりの故郷の空気だ。そんなに離れていたわけではないが、やはり懐かしいな」


 日本じゃないんで念話を使う必要もねえから、ここではイーナも普通に声を出してしゃべってる。


「それじゃあイーナは騎士団長の所とかに報告に行くのか? ……っても、その格好じゃ建物に入れねえだろ。団長の方が来るしかねえか」


 そんなことを言いながら運転席から降りたとき、何だか馬が走るときのひづめのような音が聞こえてきた。いや、王城だというんだから馬くらいは飼ってても不思議じゃないのか。にしても中庭に入ってくるのか?


ぬし様~、会いたかったよ~!」


 その蹄の音の方から、今まで聞いたことのない幼い声が聞こえてきたんで、そっちを見ると、これまた見たことのない生きものが走ってきていた。半人半馬、上半身が人間で下半身が馬の想像上の生きもの、ケンタウロスだ!


 おお、何てファンタジー! 『ぬし様』なんて叫びながら、こっち目がけて走ってくるところを見ると、イーナの従者とか家臣っぽいな。何しろ姫騎士様なんだから、そういうのがいても不思議じゃないし。


 ……と思ってたんだが、そいつは脇目もくれずにの胸に突っ込んできた!


「会いたかったよ~!!」


「ウゲッ!」


 小柄で俺の胸までしかないんだが、そのせいで俺のみぞおちに頭が突っ込んできたんで、慌てて受け止めたものの思わず悲鳴を上げちまった。


「お、おい、誰だお前は?」


 とっさに聞き返しちまったんだが、それを聞いたケンタウロス少女――上半身にはイーナが前に着てたワンピースによく似た意匠の服を着てるが、体当たりされたときに胸があることに気付いたんだ――は凄くショックを受けた顔になって叫んだ。


「ひ、ひどい~! いくらエロイーナ様が魅力的だからって、こんな短い間にボクのことを忘れちゃうなんて~!!」


 いや、忘れるも何も、俺はお前さんのことを知らないんだが……と思ってたら、イーナが横から助け船を出してくれた。


「おい、番太はその姿を見るのも、声を聞くのも初めてだろうが。まず自己紹介をせねばわからぬぞ、


「あ、そうだった~」


 てへっと笑って軽く舌を出すケンタウロス少女……ってか、だと!?


「それにしても、こので完全に直っただけでなく、精霊変化の術も身につけていたのだな。そういえば『キャンター』というのは確か馬術用語の駆け足のことであったか。その言霊の影響で人化の術でも半馬の姿になったのだな。それでも、この短期間でここまで変化できるようになるというのは大したものだ」


「うん、主様のために頑張ったんだ~。もうちょっと練習すれば完全人化もできるようになると思うよ~」


 そんな会話をしている驀進号バクシンゴーらしきケンタウロス少女とイーナ……って、お前、トラックから元の姿に戻ってるじゃないか!


「おい、人の姿に戻っちまって大丈夫なのか? 一度使ったら一年は変化できないって言ってたろう?」


 俺が思わず尋ねたのに、イーナは笑って答える。


「それなのだがな、実は一年の長さが違ったのだ。以前にゆかりんがセシウムとかいう物の状態を基準にして魔法で測ったところ、我らの世界と日本で一日の長さには変わりはないということはわかっていたので、漫然と一年も同じかと思っていたのだが、全然違ってな。日本では一年が三百六十五日もあるが、こっちでは一年が三十六日の年と三十七日の年が交互に来て、四十年に一度ほどうるう年で三十七日の年が二年続くことがあるのだ」


「おい、その基準だったら、日本じゃイーナは十八歳だぞ! あと、エルフって長寿種族って言ってなかったか!?」


「そうなるな。あと、こちらの世界の人間の寿命は七百歳から八百歳くらいだから、エルフは二百歳くらい長寿の種族なのだ」


「何てこった……」


 一瞬呆れたものの、それだったら驀進号バクシンゴーも既に完全に直ってるということに気付く。


 そして、それは同時にイーナとの生活もこれで終わりだということにも……


「そうか……今までありがとうな、イーナ」


 しんみりとしながら言った俺に、イーナは満面の笑顔で答えた。


「どういたしまして、だな。そして、これからもよろしく頼むぞ」


「へ、これから?」


 目をぱちくりさせながら聞き返した俺に、イーナは平然と言葉を続けた。


「うむ、日本に行く前に申請しておいた退職の手続きは終わっているはずだからな。これからは騎士団の任務ではなく、我個人として日本に行く形になるぞ」


「何ぃ!?」


 驚愕する俺に、イーナは小悪魔のような笑みを浮かべてウインクしながら言った。


「責任は取ってもらう、と言ったはずだぞ。嫌とは言わさぬ」


 それを聞いて思わず固まっちまった俺を尻目に、横からイーナに食ってかかる驀進号バクシンゴー


「エロイーナ様ずるい~! ボクもこの姿になれるようになったんだから、ぬし様に可愛がってもらいたいのに~!!」


 だが、イーナは平然と驀進号バクシンゴーに言い返す。


「そなたは番太の持ちものの精霊であろうが。正妻は我に譲れ。そなたは側室筆頭で我慢せい」


「む~、日本では重婚は禁止だよ~!」


「愛人はいるであろうが。大体、日本でのそなたの姿はトラックであろう。それに、『トラック子爵』の正式な側室だぞ」


「……む~、しかたないか~」


 そんな風に女同士(?)の話がついたところで、俺は聞き捨てならないことについてイーナに質問した。


「おい、『トラック子爵』ってのは何だ?」


「これから叙任される、そなたの爵位と称号だ。ドラゴン退治の勲功は無位無官の者でも男爵位への叙任が相当だが、妾腹でしかも臣籍降下して王位継承権がなくなるとはいえ王女が降嫁するのだからひとつ上げて子爵になったのだ。なに、きちんと家臣もついて領地の運営などは全部任せることができるから安心せい。そなたは時折こちらに来て印鑑を押すだけの簡単な仕事だ」


 どうやら、俺はエルフの姫騎士の嫁と、嫁公認でトラック精霊の愛人と、異世界の爵位を同時にゲットしちまったらしい。


 ……まあいいさ。イーナみたいな美人で性格もいい女――少しエロいが、それも悪くねえ――を嫁にできることに文句はないし、驀進号バクシンゴーの精霊が女だったことは予想外だったが、元より愛車として大事にしてきたんだから別の形で可愛がってやることもやぶさかじゃねえ。イーナや驀進号バクシンゴーのことを日本でいろいろ誤魔化すのは面倒かもしれねえが、そいつはイーナが魔法だか精霊術だかで何とかしてくれるだろう。


 それに、せっかく爵位ももらったんだから、休日にはこっちで暮らすのも悪くないな。俺とイーナと驀進号バクシンゴーのトリオは、国をおびやかすようなドラゴンだって退治したんだ。冒険旅行に行って怪物退治なんてことだってできるはずだ。


 いいじゃねえか、男は度胸! せいぜい日本と異世界を股ににかけた生活をこれからたっぷり楽しんでやろうじゃねえか!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

エルフの姫騎士をお持ち帰りしたらエロかった件 結城藍人 @aito-yu-ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ