第9話 私の望んだあたたかい世界はこんなにも近くにあったのね。


 真っ暗……。

 嗚呼、これって私……。もしかしてゲームの世界で死んじゃうのかな。

 ゲームオーバーになったら、どうなるんだろ。


 ん?

 なんか、遠くの方に小さく光ってるものがある……なんだろ……。


 光るものへと、意識を向けた時。



「結愛、好きだ。結愛は……?」


 うっわ、博之のドアップ!? 

 何、なに!?


「はい……。私も好き、です」


 な、懐かしい! これって昔の記憶!?


 そっか。今だから分かるけど、こんなにも私達って真剣だったんだっけ――。


「ねぇ博之、エプロンなんてつけてどうしたの? って、それなに?」

「結愛が……喜んでくれると思って、な。オムライスだ」


 爽やかに笑っちゃってさ。焦げ臭いのもこんなに鮮明に覚えてるんだ、私。

 博之が作ってくれたオムライス。焦げてたけど……美味しかったな。


 その記憶の映像が、ぼやけて消えていく。

 そして、すぐに次の映像へと切り替わった。


「ゆあー! くそぉ、ゆあから離れろ!!」

「……なる! 助けて!」


 あれ? これって――。


「ゆあをいじめるやつはおれが許さない! おれが、ゆあを守る!!」


 そうだ、これは小学生の頃の記憶だ……。

 こんな思い出、あったんだっけ……。


 もう本当に私、だめなのかな……。

 走馬灯のように、昔の記憶が蘇ってくる。


「成ってさ。絶対お菓子業界を救ってるよね」

「はぁ。何言ってんだよ……。結愛も食べるか?」

「いらないっ」


 これは……中学3年生の時の、バレンタインデーだ。

 当時ものすごく成は女子にモテてて。あと美男子っていうことで男子にもモテてたんだよね。

 この時ちょっと、何だか皆に成を取られるみたいで寂しかったっけ。


 あの時の成の悲しそうな表情、今思えば結構傷ついてたのかな……。

 成、ごめんね……。



「わ゛!? 成どうしたの!?」

「イメチェンよ、イメチェン。アタシはこっちの方がいいの」

「ほ、へー……ねぇ、成。そのカツラズレてるよ? あと口紅濃い過ぎて、たらこつけてるみたい」

「えええ!? 嘘でしょ!? 鏡、鏡っ!!」


 この記憶は……成が初めて女装した時だ。

 あはは……最初はショックだったけど、妙に似合ってたからかな。認めちゃってたんだよね。


「ねぇ。結愛アタシと一緒に住まない? あんたってストーカーに追っかけられそうだし。アタシがついてる方が安心でしょ?」

「ストーカーなんか居ないってば。でも、そうだね、家賃も安くなるしいいか」


 この時、本当になんとも思ってなかったけど。


 当たり前って、こんなにも感情が薄っぺらくなってしまうものなの?


 ねぇ、成――。

 どうして、成とずっと一緒にいるのに、成を最初の仲間として呼び出せなかったのかな……。


 成――。


 ねぇ、助けて――。お願い――。


 成――――!!!



 強く願った時、成の微笑んだ顔が一瞬見えたと思ったら、次は綺麗なシャンデリアのような照明の付いた、広く感じる家の中へと私は飛ばされていた。

 ここはどこ……?


「お願い、ねぇ、待って……! その子を連れていかないで……!」

「この子は大事なあと取りなんだ。光栄に思ってほしいね」


 え……? これ、何?

 泣いている……。彼女は、若く見えるけど誰なんだろう……。

 賀川さんに似てなくもないけど世界観違いすぎるし……。


 っていうことはもしかして、あの魔女!?


 それで……男性は分からないけど……。家の中でスーツ?


 スーツを着た男性が、女性から子どもを奪って行ってしまった。

 彼女の噛みしめた唇から血が滲む。

 悲しみが、闇となって彼女を守るように包んでいくのが見える。


 なぜだろう。

 私はその姿を視た途端、彼女の全ての気持ちが伝わってきて、頬には濡れた感覚があった――。


 助けなきゃ。



 そう思った瞬間、記憶の世界から引き戻される――。


 魔女との再びのご対面。


「ジャス! 僕にも何かできることは!?」

「……ちょっとまってくれ、今必死に考えているんだ……! ん!?」

「え!? 何かありました!? あ……」

「ヒロ、身体が光っているぜ! 一体何が……」


 先程の状況の続きと分かった瞬間。

 魔女も何かに気がついたように目を見開いて私を見てきた。それと同時に私の首を絞めていた魔女の手が緩んだ。

 身体も、呪文にかかった時よりいくらかマシになっていた。


「はぁっ、はぁっ……! じ、じぬかと思った」


 やっとのことで息ができる。私は大きく息を吸い込んだ。


「ねぇ! 私、なぜあなたがっ、子どもばかりを狙うか、分かった」

「は? 何を言って……!」

「子どもを連れて行かれて……さぞ、辛かったでしょうね……!」

「どうしてそれを……!!?」


 動揺したようで、魔女の手の力がさらに抜けていくのが分かる。


「まさかユアはアイツのエネルギーの根源を視たというのか!?」

「な、どういうことですか!?」


 興奮しているジャスとヒロの声が聴こえるけど、今はそれどころじゃない。


「だけどっ……だからって人の子どもを襲うのは……間違ってる!」

「この私の記憶を……視ただと……!? だから何だってんだ! 子どもを奪われる気持ちが分からない奴など黙れ!!」


 ぐっ――!!!


 魔女の手の力が再び強くなり、苦しさが襲いかかってくる。


「私は……ッ! 皆を……」

「黙れ!! 黙れ!!!」

「あなたをッ……助ける!!!」


「ハンッ! 戯言を! 笑わせるな! アタシの魔力を跳ね返そうったって、すぐにアタシの力が上回る!!」


「あ゛ぁああああ!!」


「ユア!!」

「くそ!! 僕だって何かできることが……!」


「な……る……!! たすけ、て……!!」


 お願い――!!! 助けて――!!



“バリィィィン――――!!!”


 私達の頭上で、その音は確かに響き渡っていた。

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