第6話 悪夢から帰還した後の追われる現実ってどうなのよ。ま、オムライスは美味しかったけどさ。


 遠くで、声が聴こえる。


「結愛ー。アンタ何勝手にアタシのゲームしたまま寝落ちしてんのよ」

「ん、え? ここは? あれー……ジャス? それにアイツは?」

「何寝ぼけてんのよまったく」


 あー……よくある、夢オチってやつ?


「う゛ー……! よかったよぅ……! 楽しかったけどでもやっぱ悪夢だったよぅ。最初の仲間は成がいいよぅ!」


 現実に安心して成に抱きつく。


「もう。何言ってんの、分かったからほら、仕事行ってきなさいよ」


 仕事で疲れてるんだ、そうだ、あれはただの夢だったんだ。


 仕事中にもチラつく昨日の記憶。思わず安堵のため息をついていると、なんとなく、賀川さんと目が合ってしまった。


「藤谷さん。ちょっといいかしら」

「はい」


 お昼の休憩に入る直前。もうすぐお昼だと高揚していたけれど、あの賀川さんが声をかけてきたことで面倒なことを任されると察した私は一瞬にしてテンションが下がる。


「この伝票、総務に提出してきてほしいんだけど」

「……はい」

「返事が遅いわね」

「はいっ! 持って行かせていただきます!」


 うーげー……。総務にだけは行きたくないのになぁ。


 何で私なの。伝票出すくらい、私じゃなくても誰でもできるのに。嫌なことって立て続けにある気がするからなぁ。


 伝票の薄い束を持った私は、総務の前まではどうにか来れた。ここからだ。


「いないだろうな……」


「……ゆ……藤谷?」


 うげ! その声は博之……!

 寝ても覚めても博之とかホントサイアク。


「人違いです」

「おい、ふざけるなって。一応ここは職場だろ、挨拶くらい……」

「お疲れ様でした。では失礼します」

「藤谷っ」


 あーもう、気分悪い!

 こんな時は社食より、ここの近くのファミレスにでも行こう。美味しいの食べてないとやってられないよ、何もかも。外に出た途端、信号機につかまるし。


「結愛!」


 信号機からやっと開放されてファミレスの扉まで来た時。肩に誰かの手が触れてきたと思って驚いて振り返ると博之が息を切らして立っていた。


「はぁ!? ちょっと、何!?」


 職場の外までしつこく追いかけてきたのかと、私の怒りのボルテージはMAXまで達しそうだった。


「あれはないだろ、職場だっていうのに」

「そっちこそ、私今からご飯だっていうのに邪魔するってひどいじゃない!」

「なぁ頼む、せめて名前で呼んでくれないか」

「はぁ。岡本さん、迷惑です。私、オナカ、ヘッテル」

「何、変な外人みたいになってんだよ……まったく。ほらっ」

「ちょ、何!? 離して!」


 力強く手をつかんできたものだから私はびっくりしてそのまま彼に手を引かれるままファミレスへ入った。


「結愛の今日の表情からすると、オムライスの気分、だろうな」

「う゛……」


 図星だろ、と嬉しそうに笑う博之ヤツにむっとしたが、その柔らかそうな表情に少し戸惑ってしまった。


・・・


「あら、それでおごってもらった、ってこと?」

「うん……」


 一緒にソファでコーヒーを飲んでいた成がクッションを抱きしめ、食い入るように私の話を聴いている。


「まぁでも、よかったじゃない。結愛とどうしても仲直りしたいんじゃない?」

「それはい゛、や゛! 昨日もなんか気持ち悪いキャラみたいになってたし」

「……そこまで毛嫌いしなくったってさ。って、何? 昨日も何かあったの?」

「あ……あ! そうなの、成。私ね、昨日すっごく変な夢みたの。このゲーム始めたら、に行けるようになっちゃってさ」

「あっはは、なんかありがちそうな夢ね」

「うん。しかも、ゲーム進めないと未来への時間が進まないとか」

「わ、なんかそれって妙に本格的な感じするわね」

「そう! それにね、そこでの最初の仲間が博之だったわけ。成がいいに決まってんのに!」


 鮮明な記憶にのこるアイツを、空でパンチするように腕を繰り出す。


「まぁ、夢ならよかったじゃない。あ、それより今日こそはそのゲーム、アタシにやらせてよ? 今日忙しすぎて出来なかったの。やっとできるわ」

「ふぅん。そしたら、私準備するね」

「ありがと。じゃ、アタシ飲み物準備してくるから。今日は見ててよ結愛」

「はぁーい」


 “LAST TIME”のゲームを起動する。


「あ、れ?」

「何よ……ん? 結愛!?」


 視界が、揺らぐ。この感覚は――。

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