第5話 一度嫌いになっちゃうと、嫌な思い出ばかりが積みに積み重なってしまうというものでして。

「あの、僕も僭越ながらお供します」

「え゛ぇっ!?」

「わっ、すみません……僕、ユアさまにとんだ無礼でもしてしまったのでしょうか」


 私の顔がとてつもない表情だったのか、ヒロの顔が引きつっている。


「はぁ……。ごめん、ヒロだよね。あと、私のことは結愛でいいから。さまはいらない」

「そうですか……。何だか落ち着きませんが、努力します」


 是非そうしてください、と私が付け足した。ヒロが仲間になってしまった以上、拒否もできないんだったら彼のペースに巻き込まれるのは本当に時間の無駄だった。




「皆様、ここがワシの家じゃ」


 豪邸とは程遠い、村人達の家とさほど変わりない大きさの家だった。村長が家の扉を開くと、若くてエプロンをまとった女性が顔をだした。


「あっ! 村長、おかえりなさいませ。って、あぁ……! あなたが例の勇者様ですね! まさか、女性だったなんて凄いです!」


 気さくな雰囲気を持つメイドみたい。


「広くはないんじゃが」と、村長に中へ促される。私達は「失礼します」と会釈しながら入り、居間と思われる場所に案内された。


「ささ、どうぞ勇者様方。お座り下さいませ」


 さっきから思っていたけど、私って本当、勇者ってことになってるんだ。なんか、実際に呼ばれるとくすぐったいなー……!


 村長は他愛のない話から私達へ微笑みを送った後、本題に入る頃になると、真剣な表情をして、長くのびた髭に手を伸ばした。


「すまないのだが一つ、勇者様に頼まれてほしいことがあるのじゃ」


 キタ!


「なんでしょう!」


 私は身を乗り出すように村長の話を聞く。


「先程見たゾンビですが、あれを送り込んだ禍々しい魔女がおりましてな……」

「あ、あのゾンビですか……。それに、魔女」

「あやつは何故か、子どもばかりを狙う畜生な輩でしてな。大人には殆ど手を出さない」

「あー……なるほど、ですね。魔女の目的は、子どもなんだ……」

「ふむ、子どもを狙うとは卑怯だな」

「卑劣な奴め……」


 私の膝に座るジャスや、隣のヒロも真剣な表情で腕を組んでいた。


「魔女の力には、私達のような老いぼれや生身の人間では、到底敵わなくての……。勇者様、あなただけが頼りなのです」


 ……ふっふふ、これぞゲームの世界!

 テレビ画面で見ていたRPGという世界を体感できるということが嬉しすぎて、武者震いさえ起きていた。


「分かりました。そんな魔女、私達がちゃっちゃと倒してきます」

「おお……! 流石、勇者様。女性であるのに、お強い……。頼みましたぞ」

「はい! 任せてください!」


 村長達に期待の眼差しを浴びながら、その場を後にした私達。


「大丈夫かユア。イベント通りだとは思うが……。魔女って、一応ここでは結構なレベルのボスだぞ」


 ジャスが難しい顔をしていると思ったら。そんなこと。


「やれる。私、自信あるもん」

「凄いです! 僕はユアの足手まといにならないように、鍛えなければなりませんね!」

「そ、そう」


 拳を握って、爽やかに笑ってみせるヒロ。なんだろな、なんっか調子狂うな。ヒロって見た目はそのまま博之な感じだけど、中身はどっちかと言えば愛されキャラなんじゃ……?

 博之もこんなに爽やかだったらまた違うんだろうになぁ。


 そう思いながらヒロを見ているとヒロがこちらを向き、照れくさそうに頬を搔いていた。


 あ、れ?

 なんだろうこの気持ち……懐かしい……?


 それから突然、視界が揺らぎだした。




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