第7話 漆黒と「ギィィ!」と鳴くコウモリと魔女。

 意識がはっきりしたと思えば、そこは見覚えのある村だった。


「あれ? ここは……」

「ユア、おかえり! さ、続きと行こうぜ」

「ユアの帰りを待っていました」


 嬉しそうなジャスとヒロ。

 あれ? あれれ?

 これって夢じゃないの? 夢ってこんな、オートセーブしたとこから続きをっていう、そんなまるっきりゲームみたいなこと、できるものなの?


「あの、これって夢じゃないの?」

「まったく! 現実の世界に帰っている間、ここは夢ということになっていたのか! 悲しいぜまったく!」

「そうですそうです」


 ジャスとヒロの気が合いすぎてなんだか居心地が以前よりよくないような。

 ま、夢じゃないんだったら仕方がない。改めて魔女討伐といきますか。


 私達は村の外へと出ると、村長から貰った“魔女の住む森”の地図を広げた。

 開いた途端、地図から光が飛び出し、弧を空に描いて行き先を示した。


「おわー! 凄い、凄い! なんてわかりやすいの!」


 このシステムは親切で本当に助かる。そのまま光を追って魔女の森に着くと、その空にはコウモリの群れが渦を巻くように飛んでいて、薄気味悪さが半端なかった。

 前を歩くヒロが私へと振り向きながら眉を寄せた。


「気味が悪いですね。ユアは怖くないですか?」

「……こ、怖くない」

「そうですか。もし怖くなったら、言ってくださいね」


 うう……。どうしてこう、調子狂うキャラなんだコイツは。


「ギィィ――ッ!!」


 突然、空を飛んでいたコウモリが襲いかかってきて、私が剣を構えようとすると、ヒロがすかさずコウモリを引き裂きに飛び出した。


「ぎぇぇァアア!!」


 決して、この声はおぞましいあのコウモリが発する奇声ではなくて。


 その後もコウモリが出てくればヒロがすかさず剣を振りかざしては、コウモリに打ち勝つためなのか、それとも恐怖に打ち勝つためなのか妙な雄叫びを上げつつ切り裂いていっていた。


 ヒロが剣を振る度に、剣先から光り輝くものが見えた。


「あれは……?」

「ふむ……。ヒロ、もうすぐレベルアップするかもな」

「そっか、頑張ってるんだ」

「なぁユア。いい奴じゃないか、ヒロは」

「……“ヒロ”はね。うん、分かるよ、“ヒロ”は」

「はぁあ……。強情だなユアは。いっそなんとか出来ないのか、現実のヒロなんとかとは」

「博之ね。って、うっさいわねジャス」


 そうこうしているうちに、ボスがいるような雰囲気をしたフロアにたどり着いた。

 魔女は、全面漆黒のクリスタルで出来たような館の奥に堂々と腰を据えていた。一足入れば、闇の中に入ったような感覚に陥って、その重々しい雰囲気に軽く目眩がした。


 魔女は頬杖をついて座ったまま、鮮血にも見える赤い色をした唇を開いた。


「何だ。人間の方からこちらへやってくるとはな」


 魔女の声が、いくつも重なって聴こえて気味が悪い。

 しかもどこかで見たことある顔のような……?


 あ!


 「う゛……嘘でしょ」


 その魔女の顔を見て私は驚いた。似すぎでしょ。あの、賀川園美に。激似で驚いてしまった。


「アンタね。村の子ども達を狙ってるっていうのは」

「ふ……。小娘ごときが。言葉を選びな」


 人々が恐れる、カーソという魔女が宙に浮くと、漆黒のドレスを闇のエネルギーを纏い、翻しながら瞳を紅く光らせていた。


「子ども達を狙うなんて卑怯な真似してんじゃないわよ。ここでアンタを倒す!」

「ハン。何素っ頓狂なことをいっているんだい? 私を倒すなんざ100万年早いってもんさ!」

「それはどうだか……。賀川……じゃなかった、カーソ。日頃の皆の恨み、晴らさせてもらうわ!!」


 ふふん。ゲームで上司に似てる奴を倒せるって、ちょっと美味しすぎじゃない?


「何を訳の分からないことを……。醜い奴はそう言うんだよ、アハハハ!」


 ぷちん。

 恨まれる人って、どこの世界でも恨まれてしまうものなのかな。

 うん。きっと、そう。


「こんのぉおおお!!」

「お、おい、ユア! 何勝手に突っ込んでるんだ!? 落ち着け、ユア!!」

「そうです、闇雲に突っ走ってはだめです!」


「皆は黙ってて!!」


 私は声を振り切るように剣を素早く構えると、思い切り彼女に飛びかかった。


「あ!! そんな、挑発にのっちゃ危ないです! ユア!!」


 ヒロも手を伸ばしているのが見えた、その時だった。


呪縛!!!パラライア

「ぎゃっ!!」


 身体が、動かない――!


「ユア!!!」

「……!!」


 どうしよう……! 体、痺れて痛いし――!!


「全く……! ユアがこれじゃ……」

「なっ、なんとか助けないと! なんとかならないのか、ジャス!」

「できるなら、とっくにそうしているさ!」


 皆……。やばい、今すごく情けないかも、私。


「アッハハハ! 何だい? この雑魚どもは。敵どころか、ゴミにすらならないんだよ!」


 カーソが動けない私を魔力で一気に引き寄せた。私の首元が、丁度カーソの手の中に収まり、そして思い切り絞められる。


 ぐっ……!!

 苦しい……! 息が……ッ!!

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