第3話 仲間になるイベントって、嬉しいしワクワクするものだと思うのよ。

 ジャスの声がして視界が暗くなったと思ったら、テレビのチャンネルが切り替わるように、私は草原に立たされていた。

 ジャスが嬉しそうに私の隣で、ふよふよと浮いている。


 私の身体からカチャカチャと聞きなれない音が聞こえると思って見てみると、肩や胴には本格的の防具の装備品が。


「わぁ、この防具オシャレな感じでいい! 剣も軽いし、なんかカッコイイ!」

「気に入ってもらえたか?」

「くぅううっ、やっぱ本格的ってイイ! もうずっとココにいてもいいかも!」

「……ユア。 ユーアー!! 聞いてるのか!?」

「あっ、ごめんごめん! でも凄い、凄いよ!」

「最初は仕方ないか。ゴホンッ。ここはな、この壮大なる大陸のはじまりとなる“サンシャイン”という村だ。ここからたくさんの街の人々の問題を解決してこそ勇者だぜ」


 え、そんなしょぼいことをして?

 私は思わず眉間にシワを寄せてしまった。


「どうしたんだユア」

「え、ううん、なんか物語のスケール小っさ! って思っただけ」

「まぁ、ビギナーは皆そう言うな。何事も、芋づる式ってヤツだ。とりあえず、村人の話を聞こうぜ」


 私はジャスに言われるままサンシャイン村へと訪れる。初めての村に入ったとたん、イベントが起きるのはゲームではありがちな話で。

 まさか、それを体感しちゃうなんて。


 村へ入ると、数人の子どもの達がうずくまって泣いていたのが見えた。


「うわぁああん!」

「お母さぁああん!」

「たすけてよー!!」



「え……!」


 子ども達を巨体のゾンビのような魔物が数匹取り囲んでいてユラユラと動いている。


 そのすぐ側で、膝をついている人が見えた。

 剣を持ってる人にも見えなくもないけどどうしてそんなところで……。

 って、あれは……血!?


 ここは、勇者の出番! よね!


「ちょっと、離れなさいよ!」


 戦闘には自信あるんだから!

 私は駆け寄って剣を構える。


 気合が入るのと同時に、風が私の頬を撫でる。


「グォオ……?」


 ゾンビ……近くで見たら気持ち悪ッ!

 しかも何この腐った臭い……うぅう……臭ッ、鼻痛ぁい……! 


 思わず鼻をつまむ。

 あ、そんな場合じゃなかった! た、助けないと!


「アンタたち、ころもたちからはなれなたいよ!」


 あ、つい鼻をつまんだまま言ってしまった。近くでうずくまってた人が私へ顔を向ける。


「お、おい……。お前……女か。力抜けるだろ、逃げろ……!」

「……!?」


 聞き覚えのある声だけでなく、顔を見て驚いた。

 まさか、見たくもない元彼アイツの顔だったなんて。

 しかも剣だけでなく防具も装備しているところからすると、やっぱり彼も戦士!?


「ちょ、博之!? なっ、なにやられてんのよ!?」

「は……? 初対面の人にそんな風に言われる筋合いはない……うっ……」


「ユア! 隙きだらけだぞ! ちゃちゃっと倒すんだ!」

「ハァ!? だれもコイツなんか好きじゃ!」

「何アホなこと言ってる! 攻撃、来るぜ!」

「へ――!?」


 私の目の前を、何かがシュバッ! と音を立てて横切った。

 私の足元に落ちたそれは、シュウシュウと音を立てて蒸気さえも出していた。

 粘液……? まさかゾンビの!?


「ぎぃゃあああああ!」


 何なのよ! 逢いたくないヤツに、気持ち悪すぎるゾンビに!


「こんのぉォオオオ! 隙きだらけなのはアンタ達だぁああ!」


 私は恐怖を通り越して怒っていた。

 アンタたちが私を怒らせたんだから――!

 まずはあのゾンビの足に剣を入れて動けなくする!


「グォッ!?」

 

 よし、バランス崩した! 次!


「グォオオァッ!」


 よし、三体バランス崩して動けないわね。流石ザコ!


「おねえちゃん!」

「がんばって!」


「まかせて! これでトドメだぁあああ――!!」


「おおユア。流石勇者だな。あともう少し……よし! ユア! 必殺技でぶっ倒すぞ!」

「え、何!?」


 ジャスの言葉の後、私の目の前には「トーネルド・スラッシュを会得しました」というデジタル文字が浮かび上がってきていた。


「その呪文をただ言葉に出してみろ!」

「う、へ!?」


 技名を言うなんて、恥ずかしいような!


「でもま、それがここの醍醐味よね!?」


 思いっきり決める!


「トーネルド・スラッシュッ――!!」


 ゾンビ達の身体に、幾つもの光り輝く線が引かれたかと思うと、強風が巻き起こった。


「わ、わっ! 風、思ったより強いんだけど! んぎゃっ!」


 我ながら情けない声でしりもちを着いてしまった。

 強風が渦を巻いて、ゾンビたちを次々と巻き上げていく。

 そのまま、光り輝いて全てが消えていった。


「わ、お……すごいっ」

「ユア、やったな!」

「うん、やったよジャス! 凄い、こんなスカッとするなんて!」


 私が飛び上がって喜んでいると、ゾンビ達から開放された子ども達が私へ駆け寄り抱きついてきた。


「おねえちゃん、ありがとう!」

「こわかったよぅ!」


「よしよし、皆。もう大丈夫よ」



「す、凄い……! あ、あのっ。あのっ、すみません、レディ!」


 まさかのアイツが話しかけてきたと思えば。

 言葉遣い、おかしくない?


「僕を、その……弟子にしてくれませんか!?」

「は?」

「おーぉ。やったな、ユア。初めての仲間だ!」


 ……え?


 私の目の前に何やら文字が浮かび上がっている。


“ヒロ・モトオカが仲間になった!”


 “仲間になった”という文字に思わず凝視した。


 ハ?


「嫌なんだけど。これ、拒否できるコマンドあるよね?」

「何寝ぼけたこと言ってんだよ、んだぜ。かけがえのない仲間を拒否するコマンドなんて、この世界には無い。心から大切にしないとな!」

「……え゛!?」


 え゛――――――――!!??

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